【KAC20244】何かが目覚める!? ささくれバトル!!!

ほづみエイサク

大激闘! ササクレバトラーズ!?

 小学4年生の春。


 ボクは疑問だった。


 今、ボクのひとさし指には『ササクレ』が出来ている。


 爪の根本あたりの皮膚の一部が剥げれてしまう『ササクレ』だ。


 だけど、それは手の指・・・だけに起きる。

 足の指・・・には一度もできたことがない。



(同じ『指』なのに)



 木や木材だってササクレを起こすのに、同じ人体の『足の指』で起きないなんて不思議だ。


 ボクはいつも、一度気になったら止められない。


 ネットで調べても、図書館で調べても、よくわからなかった。

 そうなると、後は親に訊くしかない。



「パパ―。なんで足の指にはササクレができないの?」

「またあなたは変なことばっか考えて……」



 ママは呆れながらも、自分の足を見せつけてきた。

 少しばっちいと思いながらも、足の指を見ると、特にササクレはなかった。


 ボクが嘘つきを見る目を向けると、ママは眉をひそめた。



「そうじゃなくて、カカト」



 言われた通りカカトに視線を移すと、乾いた池みたいにひび割れていた。

 たしかに同じ『乾燥』で起きている現象なんだろうけど、ボクの求めているササクレじゃない。


 でも、ひび割れを見ていると無性に剥がしたくなって、ペリッとしてしまった。



「ぎゃあああああああああ!?!?」



 ママは絶叫して、凄い剣幕で怒りだした。

 どうやらママの逆鱗・・はカカトにあったみたいだ。


 それも十分に大発見だ。

 でも、ボクの好奇心は全く満たされていない。


 世の中に答えがないのだったら、自分で答えを生み出すしかない。


 その日からボクはある実験を始めた。


 足の指にササクレを作る実験だ。


 方法は簡単。足の指をできる限り乾燥させるだけだ。


 お風呂でもなるべく足にお湯がつかないようにして、水分を与えないようにした。

 お風呂からあがった後は、ドライヤーで足先を乾かした。

 それ以外の時に使うと、親に見つかって怒られてしまう。


 あとは乾燥しやすいように、なるべく靴下を履かないようにした。

 親に「はしたない」と怒られるから、家を出てから脱いだ。

 でも結局、ご近所さんにチクられてしまったけど。


 そんなトラブルを乗り越えて、5日が過ぎた頃――



 ようやく、足の指にササクレが出来た。



 ボクは学校に着いて早々、親友に報告した。



「見て見て! 足の指にササクレができた!!!」

「あ、うん……。はしたないから足をしまって」



 親友は呆れた様子だったけど、ボクは有頂天だ。

 また一つ、世界の謎を解いてしまったのだから!


 そんな矢先。



「お前、ササクレを育てているんだってな!」



 いきなり、上級生の男子が教室に侵入してきた。

 彼はズケズケと近づいてきて、ボクの目の前に立った。


 見覚えのない顔だ。

 ボクの通っている小学校は人数が少なくて、各学年1クラスしかない。

 だから、小学校に知らない顔はいない。


 ボクが不思議に思っていると



「ほら、最近転校してきた……」と耳打ちしてくれた。



(ああ、いたなぁ)



 かなりの変人で、周囲になじめていないと聞いたことがある。


 ボクは小学4年生。

 転校生は小学6年生だ。


 上級生だけど、なぜか尊敬する気にはなれない。

 相手の方が身長が少し高いのに、ボクより幼く見えるせいだろうか。


 ボクが考えているうちに、転校生はしびれを切らしてしまう。



「おい、答えろよ! お前、ササクレを育ててるんだろ!?」

「まあ、そうだけど」

「オレもササクレを育ててるんだ!」



 ボクは困惑した。

 はじめてママや親友の気持ちがわかってしまった。


 転校生はボクの様子を気にも留めず、とんでもないことを言い放つ。



「じゃあ、ササクレバトルしようぜ!」



 一瞬、頭の中にハテナマークが生まれた。


 でも、すぐに脳内は別の感情で塗りつぶされていく。


 おもしろそう!


 そう思ってしまった。

 親友の「はあぁぁ」というため息が聞こえたけど、気にしない。



「受けて立つ!」

「決まりだな!」



 ボクと転校生は熱い握手をした。


 だけど、これからはライバル同士だ。

 絶対に手を抜かない。

 育てるのは足の指のササクレだけど。


 親友は呆れた顔で「あ、一応言っておくけど、アタシは参加しないからね?」と念を押していた。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 それからボクは、全力でササクレを育てることに決めた。


 転校生は手の指のササクレでバトルをするけど、ボクは足の指ササクレだ。

 一見不利に見えるけど、ボクの考えは違う。


 腕より脚の力の方が強い、とマンガで読んだことがある。


 なら、ササクレバトルも足の方が有利に決まっている!

 見た目の良さや大きさでバトルするんだけどね!


 早速ボクはササクレトレーニングを開始した。


 ササクレは肌の乾燥で起きる。

 ならばと、とことん乾燥させた。


 基本は最初にササクレを作った時と一緒だ。


 だけど、それだけでは大きなササクレにはならない。


 皮膚はたんぱく質だ。

 たんぱく質を積極的に食べた。


 さらには、ササクレの剪定せんていを行い、栄養を集中させた。

 乾きすぎたときには霧吹きで程よい水分を与えた。


 歩いている途中にササクレが取れないように、包帯で保護をした。

 絆創膏だと万が一にくっついてとれてしまうかもしれない。


 そんなボクの作戦は功を奏して、ムクムクとササクレは成長していった。



 そして、決戦の日が来た。



 放課後の教室。

 夕日が見守る中、ボク達はガンマンのように対峙していた。


 ボクは机の上に座っているけど。

 足のササクレを相手に見せつけるためだ。



「じゃあ、いくぞ。覚悟はいいか?」

「そちらこそ」



 同時に、お互いのササクレを見せつけた。


 転校生のササクレは『見事』の一言だった。


 左手の親指でできたササクレ。

 一番太い指だから、大きなササクレを作りやすい。

 見事な戦術だ。


 実際、かなりの大きさに成長している。

 爪の半分ぐらいだ。


 色艶もよく、まさに理想的なササクレだ。



「やるじゃん!」



 褒めたたえるために転校生に目をやると、彼もボクのササクレを見て興奮していた。



「すご! 足の指でこんなのできるのかよ!」

「ちょっ!」



 転校生はボクのササクレをよく見ようとしているだけだろう。

 だけど本人の意思とは異なり、彼の優しい手つきは、ボクの足の裏をくすぐっていた。



「もっとよく見せてくれ!」

「ちょっ、くすぐったいっ!」



 ボクが暴れると、転校生は態勢を前のめりに崩してしまった。



「あっ!」


 

 結果、転校生の頭が、ボクの股の間に収まってしまった。



「ご、ごめ……」



 転校生は慌てて離れようとした。


 しかし何かに気付いたのか、顔が驚愕に染まった。



「お前、女子だったのか!?」

「え、そうだけど」


(そっか。転校生だから知らないか)



 ボクが『男子っぽく見える女子』だということは、学校のみんなが知っている。

 スカートは好きじゃないし、動きやすい恰好が好みなんだ。

 だけど転校生で、しかも浮いた存在だった彼は、知る機会がなかったのだろう。


 転校生はなぜかモジモジしながら口を開く。



「あ、えっと、今まで悪かったな」

「いや、別に全然いいけど。ボクもわるかったし」

「そ、そうだな。その、キレイな足だな……」



 なぜか転校生の態度が豹変してしまった。

 ボクはそれに異様にむかついて、頬が膨れてしまう。



「じゃあ、今日はボクの勝ちでいい?」

「あ、うん」



 釈然としない態度に、ボクのイライラはさらに積もっていく。


 あんなに熱心にバトルしてたのがバカみたいじゃん!

 さっさと切り上げよう。



「次、いつにする?」



 ボクがなんともなしに言うと、転校生は目を丸くした。



「あ、え……えっと、またササクレバトルして、くれるのか……?」

「するに決まってるでしょ!」



 苛立つあまり、つい叫んでしまうと、転校生は晴れやかな笑顔を見せて



「おう!」



 と返事をした。


 それから次の日程を決めた。



「じゃ、じゃあまたな! 次こそは負けないからな!」

「うん、次もボクが勝つから!」



 挨拶をした転校生は、顔を真っ赤にしながら、しかもなぜか内股で帰っていった。



「変なヤツだなぁ」



 ボクは転校生の背中を見送った。



(なんか物足りないけど、帰ろう)



 ボクは少し、教室を後にようとした。


 だけど――


 一歩足を踏み出した瞬間、グラついた。


 足の裏の、転校生にくすぐられた部分。

 そこが少し痺れて、うまく歩けない。


 いや、いつもの痺れとは違う。

 いつもの痺れはただただ痛くて苦しいのに、今の痺れはどこか心地がいい。



(なんなんだろう。一体……。

 もう一度ササクレバトルをすればわかるかな?)



 ボクは新たな興味が増えて、ルンルン気分で帰路についた。


 これが人生の大きな岐路・・になることも知らずに。



 そして――



 足フェチ(特に足裏フェチ)に目覚めた転校生と、


 くすぐられフェチに目覚めたボクは、


 足の長い付き合いになるのだった。






――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

こんな性の目覚めをしたかったなぁ

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