23.カンペー、騎士団に入る
話としては、騎士団の副団長でアイナの幼馴染のイーヴァ・クロウは大事なイベントがあるけど結膜炎で困っている。原因は魔眼レンズの付けすぎ、ルール守らなさすぎ……
「治療については任せてよ。幼馴染みとして、医師として必ず治すと誓おう。問題は……」
「時間だ、時間が足りない! 魔眼を使えないのは困るッ! それに他にもまだ問題が……」
「何でだよ、単なる模擬戦なんだろ? 剣とか使う的な」
「魔法が必要なんだ! 相手も使う以上、こちらも必要だ」
「使えばいいじゃん」
「私は魔眼レンズでしかうまく魔法を使えないんだッ!」
自慢することじゃねぇよ。
剣と魔法のファンタジー世界かと思ったら、全員が全員使えるわけじゃないのな。そういえば、追放パーティーも剣士と槍使いは魔法使ってなかったな。
「元々イヴの家系が騎士や軍隊で名を馳せた名家でね。まぁ直系じゃないんだけど、イヴも剣の腕だけじゃ足りないからってことで、極めて優秀な逸材である私が自分の研究も兼ねて魔眼レンズを見繕ったのさ」
「アイナの愛である魔眼は非常に便利で剣に炎を纏わせるのはもちろん、自分の意思で対象を焼くことも簡単、おまけに魔力消費もない素晴らしい一品なのだッ!」
「でも使い過ぎて困ってるんだろ」
「し、しかしだなぁ……魔眼が使えないと不利というか……うむぅ」
「このままだと、また無理に使うかもしれないね。カンペー、監視を頼むよ」
「はいはいわかり……あ?」
は?
「だってこのままじゃイヴ、また無理しそうだしね」
「お前が見ろよ」
「私はこれから治療の目薬作成があるもん」
『もん』じゃねぇよ……
「それに、治療用の魔眼レンズと、イヴに新しく用意するための新しい魔眼レンズの素材もいるからね。カンペーにはその素材調達をお願いしたい。それが今回の仕事だ」
「俺いま休憩時間中」
「金貨2枚でどう?」
「やる」
帰ったら午後の診療だけど……まぁいい。金がもらえるならやってやろうじゃないか。
「決まりだね、じゃあ早速今日からカンペーはイヴの監視と指導だ。あとは今日中に素材集め!」
「え……1週間以上付きっきりって、着替えなんて持ってきてないぞ」
「あるじゃないか、
さも当然と言わんばかりに、アイナは言い切る。
俺……枕が変わると寝れないんだよなぁ。アイナの診療所はともかく、異世界の兵舎って不衛生そう(偏見)。
つーか、実際ちょっと埃っぽいんだよな。鼻炎になりそ。
「待てアイナッ! 治療は受けるがこんな胡散臭い男と四六時中一緒にいるなど……あとまだ」
「カンペーは魔眼レンズのエキスパート、魔眼フィッターだよ? それとも、私の信頼する人物が信用できない?」
「む、むぅ……」
いつからそんな大層な人間になったんだろうか。
どっかの誰かさんに無理矢理渡された魔眼レンズを付けただけのパンピーである。
そんなことは露知らず、アイナに言いくるめられる副団長様がどんどん萎んでいく。幼馴染みといっても、お医者様の方が口は回るらしい。
「悲しいなぁ、イヴは私の事が信じられないんだぁ~」
「そ……そんなことはないッ! いいだろう、そこのカンペーは今日からわたし専属の部下として監視してもらう!」
「まぁ仕事だし、よろしくな」
冒険者ギルドの次は騎士団か……まったく、退屈しねぇなぁ。
何日泊まることになるのかは知らないが、とりあえず副団長の部屋は掃除だな。
「あ、そうだ。アイナ、魔眼レンズの素材って何なんだ? 魔物の眼球か?」
「違う違う、炎猩々の魔眼は診療所にあるし、別の発火能力でも素材はあるからまた後で選定すればいい。今欲しいのは魔眼レンズの原材料さ、ソニアの分で切らしちゃってね」
あー、『ひみつ』とか言ってたアレか。
意外と企業秘密明かすの早かったな。なんなんだろ、水魔法? 水まんじゅう的な? 現代日本のコンタクトじゃないなら、異世界特有の存在……物質……魔物か?
「なんだと思う?」
「いいからはよ教えろ」
「んもぅ、魔眼レンズの根本を担う素材だよ~? ちょっとは引っ張ってよぉ」
「まさか『スライム』とかじゃないよな? ハッハッハハハハハ」
「…………………………」
冗談である。
どうせもったいぶって全然違う答えなんだろ? さっさと正解を――
「うぅ~!」
「な、なんだよ……?」
若干の涙目で、アッシュグレーの髪が震える。認めたくないのか、それとも当てられたことが悔しいのかは定かではないが、ちょっと顔が赤い。
「マジか」
「すぐに当てられたんじゃ、ひみつにした私が間抜けみたいじゃないかっ!」
「えぇ…………」
スライムもいるのかよ。
しっかし、グリフォンの後にスライムって……順番間違えてない?
「じゃあ私は行くから‼ 勘の良いカンペーはイヴの監視頼むよっ⁉」
「怒んなよせんせー」
鼻息荒いまま、雇用主は大きく足音を立てて退室していった。完全に置いて行かれたな……
「あぁ、怒った表情のアイナも良い…………!」
恍惚とした表情で、アイナの後ろ姿を見送るイーヴァ副団長。
幼馴染みにも色んな形があると思うが……正直、こいつはヤバいと思う。なんというか……大きめの矢印がアイナに向いている気がする。
「OKするの、早かったかも」
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