幕間 異世界金貨の使い道

18.あぁ素晴らしき異世界かな


「ありがとうございました」

「………………………………………………マジか」


 少し遠出して、貴金属店へ『副業』の換金へ。異世界金貨の鑑定は速やかに済み、手元の財布はきた時よりも厚みを増した気がする……というか確実に増した。


 そう、例えるならパチンコで大勝ちした時のような。


 金貨1枚あたりで約7万円。それが4枚あるのだから、大量の諭吉さんがこんにちは。

 初回のアイナへの魔眼選定と、ソニアへの選定、そしてグリフォン討伐時の追加で4枚……ぶっちゃっけ月給より多い。


「あぁ素晴らしき異世界かな」


 今度は金相場も考えた方がいいか……?

 でもグリフォン討伐みたく危険な目に遭うのは勘弁願いたいな。それならもっともらわないと割に合わない。


 光の壁を通り抜け、日本へ帰還すると、金曜の夜……ちょうど謎の坊主頭に襲われたあの時に戻ってきた。

 時間にしておそらくは数分後の世界。あの男も既に消えていた為、そこからは家に帰り、ひとっ風呂ぷろ浴びて泥のように眠ったのである。結局魔眼レンズ──もとい、コンタクトを何日も外していない計算になるが、今のところ不調はない。


 そこから朝イチで換金できる場所を調べ、今に至る。

 ……まさかわけのわからんレンズをつけたら数十万儲かったなど誰も信じられまい。


「店も一回ごとに変えた方がいいかもな」


 見たことのない金貨だ、実家から頼まれたと建前を付けたが何度も同じ店に何枚も金貨を運ぶのは怪しいだろう。


 それはそれとして。


「さてと……お給料ももらえたけどっと」


 降って湧いたような金ではあるが、特に使う予定はない。いざ欲しいものがあるかというと……


「……リュック買うか」


 グリフォンとの戦いで汚れてしまったのと、少し破れたので変えておこう。あぁ、それとアイナの診療所は蝋燭がないからなんか明かりを……って、


「異世界装備の買い出しかよ……」


 それでも自然と量販店へ足は運ばれる。

 リュックは仕事でも使うし問題ない……が、なぜか買う時になって『選定の魔眼レンズ』は同じデザインのものではなく、外面にポケットの少ないビジネスタイプのリュックに金色の糸を伸ばした。


 ……日本でも機能するんですな。

 おまけに懐中電灯を探しに行けば細長くランタンの形にもなる2wayタイプのそれを薦めてくる。お前は一体何なんだ。


 一応アウトドアコーナーでナイフも覗いてみたが、魔眼レンズはさっさと退店するように指示を出している。考えてみれば、今まで大して格闘術も習ってない人間がやることじゃないな。


「残った分は……貯めとくか」


 なんとも夢のない異世界金貨の使い道だ。

 あとは……食料品買っとくか。あの異世界のパン、どうにかならないのかな。



 ◇ ◇ ◇



 スーパーへ向かうと、魔眼レンズ無双が始まった。

 

「キャベツと人参、タマネギとピーマンとネギもいっとくか……」


 何を手に取るべきか、並んでいる野菜からどれを取るべきなのか、両目につけた『選定の魔眼レンズ』は全て金色の糸で教えてくれる。しかも素人目で見ても他のものより状態よさげ。肉類に関しても確認するよりも前にお得な豚肉のパックへ誘導してくれたのである。


「こんな実用性が…………!」

 

 嬉しいっちゃ嬉しいが、地味だな。 

 グリフォンと戦った時に出ていた、他の面子と繋がった糸はなんだったんだ? アイナは選定の魔眼の能力って言ってたけど、聞きそびれた。


「まあ……気にしたら負けか」


 どうせまた異世界に呼ばれるんだから、その時に聞けばいいだろう。それまでにこのレンズを外す方法を考えててもらいたいもんだ。


「ちょっと高いビール買お」

 

 変わらない週末を過ごし、そしていつもと同じ月曜を迎えるのであった。

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