そのくらいにして。

西奈 りゆ

ささくれ

放っておけない性格なのだ。


ふと背後で聞こえた物音や、ふと思いついた「こうすればどうだ」も、

一度気になってしまうと、けりがつくまで行動せずにはいられない。


物音は、確認すればいい(たいてい何かが落ちている)。

思いつきも、メモすればかたちになってけりがつく(そこら中にメモがある)。


「ふと」を放っておけない。

一番いやなのは、「ふと」気づいた、「ささくれ」だ。


「ふと」気がついた、右の人差し指。

ピンク色の爪の横に、3ミリくらいのささくれができていた。


私は、ささくれが嫌いだ。何よりも嫌いだ。

そうね、「別れた彼氏より嫌い」って言えば、分かる?

え、嫌味じゃないよ。ほんとうにそうなんだってば。


爪みたいに、いさぎよくない。

爪は切れば黙って私から離れていくけど、ささくれはいつまでもうじうじと、

自分と自分じゃないもののあいだで、中途半端な存在感を放ってる。

離陸しますけど、いつになるか分かりませんっていう、定刻を過ぎても予定が立たない飛行機みたいにね。


爪切りで切ればいい? そう、それ。

だけど私が馬鹿だった。大人しく爪切り取りにいけばよかった。

でも、すぐにすぐに、けりをつけたかったわけ。

だから、引っこ抜いたの。下側に。


それが間違いだったのに気がついたのは、血が滲んでから。

いらない皮膚だけじゃなくて、いる皮膚まで持ってっちゃったの。


あーあ。

どうして私、こんなそそっかしいかな。

急ぎしょう。早くしないと気が済まない。待っておけないていうか。

ぱっと思ったら、即行動。じゃないと、気持ち悪いんだよね。


こんなときに限って絆創膏も切らしてる。


あーあ、どうせ気づくならこういうことに気づけよ私。

いいよね、血なんてすぐに固まるし。いいよねいいよね。

あ、爪切り、見っけ。今さら。あ、絆創膏も、見っけ。


あ、思い出した。


119番、しなくちゃね。


さっき別れた、彼が転がってる。


履歴って、「ふと」見たくなるとき、あるじゃない。

そんなときにのんきに後頭部なんて見せてる、あなたが悪いの。

ベタな灰皿なんて、置かなければよかったのに。

わたしを粗末に、しなければよかったのに。


見つけたら、即動かないと嫌なの私。

「ささくれ」だって、ねえそうでしょう?















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そのくらいにして。 西奈 りゆ @mizukase_riyu

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