第5話 格上

詰め寄って来るや否や、

突然俺の胸倉を掴んでくる。


「なんであのとき敵が

迫っていることを言わなかった!?」


「ふ、ふざけんな!

俺は言おうとしたぞ!?

それを聞かなかったのは

レッズじゃねえか!」


こんなにも頭に血が上ったのは久しぶりだ。

何で俺がこんなことを

言われなければならないんだ。


だが、レッズの力に地にねじ伏せられる。


「なんだとお!?

それをお前!

あそこで泣いている冒険者に言ってみろ!

亡くなったグランドとリンリンに言ってみろ!

重傷を負ったアメリアに言ってみろよ!」


「な……」


その言葉に俺の思考は停止した。

亡くなった?

あの二人が?


「仲間にも危険が迫ってたんだ!

何としてもそれを伝えるべきじゃなかったのか!?

あそこでお前が不貞腐れて逃げなければ

仲間は助かったかもしれないんだ!

よく仲間置いて逃げれたな!?

この裏切り者が!!!」


ずっとそうだ。

俺はこいつに敵わない。

力でねじ伏せられて抵抗できない。

いつも言い負かされて、情けなくて。


こんな自分が……嫌だ。


「おい、少年」


そのとき、レッズの肩をグレイスさんが

力強く握った。


「その怒りは俺が受けよう。

本来は俺らが始末すべきモンスターを

上層に逃がしてしまったのが原因だから」


グレイスさんの登場に周りが騒然とする。


「あ、貴方はルーラーズのグレイスさん?」


流石のレッズも驚いた様子で

俺から手を離した。


その後ろには餓狼、エリシア、ローズ、

ベルニア、ハンターと続いている。


この6人がこの世界最強の

グレイスパーティー。


「い、いえ! その!

俺はグレイスさん達を

責めていたわけじゃなくて、

こいつが仲間を置き去りにしたことに対して」


「それは当然の行動じゃないかな。

あのモンスターは残ったところで

殺されてるし、

逃げたのは何も間違ってないよ」


そうハンターさんが言う。


その言葉にレッズがうっと押し黙る。


「他にないか?

俺にぶつけたい怒りは?」


「いえ! グレイスさん!

とんでもありません! 

今回のモンスターを倒したのも

グレイスさんとお聞きしていますし、

むしろ感謝しています」


こいつ……凄い変わりようだな……


「よかった。よし、じゃあ行くぞお前ら!

ほら! レオ! さっさと立て!」


「はい!」


グレイスさんに言われて慌てて立ち上がる。


「……は? おいレオ……?

お前何でルーラーズの人たちと

一緒に……」


「俺このギルドに加入したんだよ」


そう言い捨てて俺は背を向けた。

一瞬だけ、絶望に満ちたような

レッズの顔を見た気がしたが、

もうどうでもいい。


とにかく、これから俺はこの人たちに

ついていかないと。

置いて行かれないように。


「な、何でですかグレイスさん!

そんな奴をギルドに入れるメリットなんて

ないでしょ!?」


突如、背後からレッズが叫んだ。


「知らないでしょうけど、こいつ

アーチャーなのに矢は命中しないし、

Eランク試験も三回落ちてるし、

弱虫で何もできないくせに上から目線で。

そんな奴入れるくらいなら俺の方が」


そのときだった。


レッズが最後尾にいた餓狼さんの服に触れた。


直後、鞘から抜かれた刀身がレッズの首を


「餓狼!!!」


そのグレイスさんの言葉に寸での所で

切っ先が静止した。


ちっと舌打ちしながら刀身を鞘に納める。


その瞬間、餓狼さんはレッズの腹に

目に留まらぬほどの蹴りを入れた。


あのレッズが一撃で苦しそうに

膝から崩れ落ちる。


「二度と俺の視界に入るな雑魚が」


そう言って、餓狼さんは背を向けた。

その様子にグレイスさんが


「エリシア、治療してあげてくれ」


とため息をついた。


―――――――――――――――――――――


グレイスパーティーに加入して

初めてのダンジョン。

俺の実力を確かめる目的のため

今回は軽くダンジョンに潜るだけらしいのだが。


「よーし着いたな。いつものとこ」


なお、そこは30層。

人類が開拓できた最終地点。


グレイスさんがいつものとこと言っていたから、

まじでこの30層を拠点としているのか。


「来たぞ。餓狼」


グレイスさんがそう呟くと同時に、

餓狼さんの刀身がむき出しになる。


まるで、風のような俊足で餓狼さんは

現れたモンスターを瞬殺した。


こ、このモンスター……

確か星6クエストの討伐対象だったような。


クエストは星1から星10まで

ランク付けされており、星の数が増えるほど

そのモンスターの討伐難易度は跳ね上がる。


レッズ達と協力して倒せた

最高ランクが星3だったのに。


「ここじゃ退屈過ぎる」


餓狼さんはつまらなそうに

刀身を鞘に納めた。


餓狼

イーター 神速


餓狼さんは自身の脚力を通常の

5倍まで上げることができるらしい。

ただでさえ、身体能力の高い獣人なのに。

それを5倍まで上げれるなんて。

考えたくもない。


「ちょっと餓狼! 

アタシにも獲物残しておきなさいよ!」


ローズさんは強靭な鱗に覆われた姿で

不服そうに餓狼さんに言う。


アリア・ローズ

イーター 融合


召喚したモンスターと自身を融合する能力。


俊敏な体と鋭い爪に加え、

召喚した龍と融合して鱗の鎧を身に纏った。


二人共、自身の職業と種族、

イーターの特殊能力を活用して

化け物レベルの強さをしている。


だが、それ以上にも強いのは、


「よあああし! 来い!!

モンスター!」


グレイスさんは迫ってきた

ゴーレム系のモンスターの

殴りをまともに喰らった。


「ははははは! まだまだまだ!!!

もっとばっちこおおおおい!」


バコン!!

バコンバコンバコン!!


A級冒険者なら即死してしまうほどの

打撃を何度も何度も喰らっていく。


「だ、大丈夫なんですよね?」


今日はこの質問を三回ほどハンターさんにした。


「大丈夫だよ。

グレイスは追い詰められば

追い詰められるほど強くなるから」


グレイス・イシュターン

イーター 逆境覚醒


「ははっ!!

いいパンチだ……

おら! これをくらってみろ!!」


スパン!!!!!


グレイスさんが拳を振るった瞬間、

ダンジョンが揺れた。


「ふぅ……あらかた片付いたな」


つ、つええ……

30層のモンスターが

30分程度でいなくなった……


これが世界最強のパーティー……

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