ダンジョンの最奥部にパンダがいた件

里場むすび

ダンジョンの最奥部にパンダがいた件

「笹くれ」


 新人冒険者ルゥルゥがダンジョンの最奥へ到達すると、そこには白黒の体毛を持つ奇妙なクマが鎮座していた。


「笹くれ」


 豪奢な椅子に腰掛け、口元に手をやって何かを噛むジェスチャーをしている。


「笹くれ」


 ……なんだ、これは。


 ルゥルゥの頬から一筋の汗が垂れ落ちる。

 殺気はない。あの姿、かたち。愛くるしさも満点。だがクマ相手に油断はできない。


 ルゥルゥは剣を構える。


「おい」


 白黒熊は立ち上がるとルゥルゥを指差した。


「パンダに向かってなんだその剣は! 動物園のアイドルに向かってよォ!」


「どう、ぶつ……えん……?」


 なんだそれは。

 ルゥルゥの呼吸が浅くなる。冷や汗が、額を流れ落ちる。


「お前まさか、動物園を知らねぇのか?」


 白黒熊が一歩、こちらに近付いてくる。


「く、来るなッ!」

「そんなビビるこたねぇだろ。つーかここどこ? なんで突然オレの言葉が通じるようになったんだ? あとさ、なんか来てね?」


 ずん。という振動。ルゥルゥは背後を振り向く。


 節くれだった青緑色の細長い身体、幾重にも複雑に絡まり合った、網のような根。


「タケドライアド!? ここまで追い掛けてくるなんて!」


 無理だ。あの硬い身体を剣で両断することなど——。


 瞬間。


「んだよ。あんじゃねぇか笹ァ!」


 ルゥルゥの脇を通り抜けてタケドライアドに突っ込む影。

 白黒熊だ。

 白黒熊はタケドライアドの身体——あの硬い幹に喰らいつくと、ぶちぃと噛み千切って見せる。

 圧倒的咬合力。

 そうしてタケドライアドを喰らって喰らって——。


「うめぇなこの笹」


 タケドライアドは死んだ。

 ルゥルゥはただ見ていることしかできなかった。

 だが、その脳裏には一つの打算があった。


 ルゥルゥは白黒熊に土下座する。


「お願いします! 私と一緒にパーティを組んでください!」

「ん? おお。いいぜ」


 こうして、やがて魔王バッファロー・ザ・デストロイを討ち、【パンダテイマー】と呼ばれる冒険者ルゥルゥの冒険は今ここに真に幕を開けた。


(了)

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