俺の可愛い後輩を泣かせたやつ誰だよ！

第1話 ささくれ

「あの、血が出てますよ…キズテープ使って下さい」

「え？あぁ、ありがとう。えっと、君は１年の…」

「あ、１年２組の内藤マイです！お疲れさまです」

それが俺とあの子の最初の出会いだった

俺が中学２年の時

部活帰りに、服か何かに引っ掛けて指のささくれから血が出た。

別に気にしてなかったけど、たまたまその場にいた１年の女の子が声をかけてきた

女子バスケ部で、可愛い１年が入ったって噂の子だった

スラリと背が高くて、足も長くモデルみたいにキレイな子で

去り際のポニーテールが揺れて可愛かった

それから気になって部活中によく目が行くようになった。１年の女子で３ポイントシュートが入るのはあの子だけだった

俺って単純だから、キズテーフ１枚で気になるあの子

そんなある日

テスト前の部活が休みの時に

たまたま門を出た所で彼女が俺の前を歩いてた

声をかけよう！頑張れ俺！

キズテーフありがとうって言え！こんなチャンス無いぞ！

…―結局、声をかけることが出来なかった

だけど家が分かった……いやいやストーカーじゃないよ？途中まで同じ方向だったし！

それからテスト期間中もよく見かけるけど、声をかけられなかった…ヘタレだよ

転機が訪れたのは夏の３年の引退試合が終わった頃（※夏休み中）

体育館裏から３年の女子が数人出て来た

その時は特に何も思わなかったけど、数分後にあの子が泣きながら出て来た

ジャージが土で汚れてて、背中に靴の跡がくっきり残っていた

隣で筋トレしてた１年の後輩達が「女子ってエグッ…俺だったらもう辞めてるわ」と話してるのが聞こえた

「え？どういう事？やっぱ３年に呼び出されてリンチ？」

後輩A「３年の女子の先輩と１年の内藤さんがメンバー交代したらしッス…引退試合なのに監督もえげつない事しますよね」

後輩B「内藤さん３ポイント入るんで試合には勝てたけど…後半はパス回してもらえなくて準決勝で負けてました。１年の間では有名な話っスよ」

「それは気の毒な…メンバー交代は監督の采配だろ？あの監督、厳しい割に教えるの下手だよな」

その後、校門を出た所であの子が前を歩いてるのが見えた

もう運命だと思った

気がついたら走って追いかけてた

３年の理不尽にムカついて腹の底が熱かったから、勢いがあったんだと思う

「内藤さんお疲れさま！」

「え、あっ、お疲れさまです？？」

「あ、えーっと俺、男子バスケの前野だけど」

「ハイ知ってます。２年の前野先輩ですよね」

知っててくれたんだ！マジで嬉しい！！

「帰り同じ方向だよね！」

「ハイ、駅方面です」

「えっと……」

ヤバい！話題が無い！

さっき見てたよ、なんて言えない！

「あー、この前の試合お疲れさま！女子は準決勝まで行ったんだよね？俺らは予選落ちだったから」

「あ…ハイ、準決勝までいきました……」

「えっと！男子より頑張ったんだ！凄いことだよ！元気出して」

「……ウゥ…ありがとう、ございます、グズッ」

「わぁ泣かないで！あっ公園でちょっと休憩する？」

グズる内藤さんを通りの公園のベンチに座らせる

道からは木の陰になって見えないところだ

３年に呼び出されてショックだったんだな…可哀相に

鞄からタオルを出して渡した

今更だけど、汗臭くないかな？（ドキドキ）

「私…もう部活を、辞めようかと思って…ウゥゥ」

「内藤さん上手いのに！辞めたら勿体ないよ！」

「バッシューとかユニフォーム代が万単位だし、勿体ないから辞めるの渋ってたんですけど…全然楽しくなくて

でも友達にその事を相談したら

選手に選ばれたのに調子乗ってるとか言われて…

３年の先輩の代わりに試合に出たら、２年の先輩達から無視されるようになって…」

「それで試合に出れなかった３年の先輩からもリンチにあってたの？」

「……もしかして今日の見られてました？

違うんです、３年の男バスの副キャプテンの辻本先輩っているじゃないてすか

話したことも無いんですけど、私が色目使ってるとか調子乗ってるとか先輩達から難癖つけられて

いきなり背中を思いっきり蹴られたんです…

怖かったし痛かった…グズッ」

副キャプテンはイケメンだ、内藤さん狙いだったのか！？

内藤さんは可愛くて壁に立ってるだけで目立つもんな、その上バスケも上手いとか

僻まれるんだな

「でも、３年は引退するからもう大丈夫じゃない？」

「女子の先輩達は秋ごろまでいるって言ってました…

小学校から仲良かった友達も私の悪口言ってたんです…

私、男子と話したのって前野先輩にキズテープ渡した時くらいです

それ以外は機会がなく挨拶すらしてないのに、男子に媚売ってるとか言われて…ウゥゥ

練習の時も誰も組んでくれなくなって…もう居づらくて、辞めようと思うんです」

ささくれ出血にキズテープの事も覚えてくれてたんだ！

「……そっか、内藤さん上手いから残念だよ

弱小男バスは未来がないけど、女子は内藤さんがいたら優勝目指せたかもしれないのに」

「ありがとうございます、その一言で耐えてきた日々が報われた気がします」

泣きながら笑った顔が可愛くて…ぐっと来た

「うん、お疲れさま……あの、良かったら連絡先交換しない？

お疲れさま会しようよ、このまま辞めて終わりってなんか寂しいから！

バスケに嫌な思い出だけ残るよね？

ふ、２人で打ち上げしようよ！」

多分、声が震えてたと思う

かなり苦しい誘い方だけど、連絡先を交換した。

控えめに笑った顔も可愛かった

帰ってから、何度も打ち直してドキドキしながら文章を考えた

夜の11時過ぎにメールを送ったのに、すぐに返事が来て、週末にボーリングとカラオケに行く約束を取り付けた

人生で最も楽しかった時期だと思う。

あの頃は若くて…夜中なのに叫んでベッドに転げ回った

週末、私服の彼女が可愛くて最高だった！

俺はスッゲー楽しかった！

彼女もたくさん笑ってくれてたし気晴らしになったと思う

それから夏休みの終わり、夏祭りにも誘った

俺のために浴衣着てきてくれて、ドキドキしたしめちゃめちゃ可愛かった

これは、完全に俺の事好きだよな？

「今まで凄く頑張ってた内藤さんの事が好きだ。俺と付き合って下さい！」と思い切って告白した

最初は、キョトンとしてたけど

すぐに真っ赤になってアワアワしだした

「本当に私なんかでいいんですか？私バスケ辞めちゃいましたよ？」

「一生懸命だった君も好きだし、もう無理って泣いてた君も可愛かったよ」

「恥ずかしいからあの時の事は忘れて下さい！」

「忘れたくない……あの、それで返事は？急がなくてもいいけど」（ドキドキ）

「こ、こちらこそ、よろしくお願いします（照）」

ヨッシャー！！！

照れて、はにかんだ顔も可愛かった

新学期が始まって、彼女がバスケを辞めた事が知れ渡った

誰がチクったのか女バス内でいじめがあったって噂になってた

３年の女子の先輩は高校推薦が決まってたからイジメを否定してたけど、SNSに動画が流されてた。

マイちゃんにはモザイクがあったけど、よく耐えたなって感じの酷い暴言だった

あの時に無理に引き止めなくてよかった…

３年の先輩は、それで推薦取り消しとかは無かったけど

付き合ってた彼氏と別れたとか、クラスで孤立したとか噂が流れてた

マイちゃんは噂のせいでしばらく落ち込んでたけど……

俺は、ちょっとスカッとした！

ネタバレって程では無いけどSNSに流したのは後輩Aだった

後輩Aはマイちゃんと同じクラス

彼女が女バスで孤立してたのを知ってた

何とか助けたいけど、イジメを先導してたのは女子とは言え先輩

そこで俺をあの日、あの時、あの場所に連れてきて３年にイジメられてる所をわざと見せた

俺にイジメられてる話しを聞かせ

本当は、俺がキャプテンに告げ口する事を期待してたらしいけど……

俺が彼女を公園に連れ去って、ベンチで慰めてたのも陰から見られてた

新学期が始まった時の噂の真相も分かった

クラスの女バスの子が、辞めたマイちゃんにマウント取って嫌がらせをした

ブチギレたのはバレー部の子たちだった

体育館は４分割してバスケ部とバレー部が使ってる

弱小バスケ部と違ってバレー部は強豪

学年関係なく強い選手はレギュラーで試合に出てる

１年の体育はバレーだ

マイちゃんはバレーでもコートの壁までサーブを飛ばしたらしい

高身長でアタックもバシッと決めてたって

俺の彼女は運動神経良すぎない？

体育の先生がバレー部の顧問で、勧誘してた

１年のバレー部は２年３年にライバル心を燃やしてて、マイちゃんを歓迎してるようだった

だからバスケ部を無事に辞めるまで見守っていた

それで、いざ誘ったらマイちゃんは、すっかりトラウマになっていた

女子のカーストは女子バレー部

弱小バスケ部など一捻りだと

俺は彼氏なのに知らなかった…ちょっとショック

彼女とは俺が中学を卒業するまで付き合ってた

卒業式に泣いてくれて可愛かったし、第２ボタンをあげたのは良い思い出

俺は、卒業後も別れたつもりは無かったけど

だんだんお互いに連絡しなくなって

気がつくと２ヶ月も連絡を取って無かった…泣いた

その後、同じ高校に進学してきた後輩から聞いた話し

駅で俺が他の女と歩いてる所を見て

彼女の中で恋が終わったらしい

一度だけ身に覚えがあった

でも浮気でも新しい彼女でもなく、ただ偶然居合わせて、ほんの5分ほど話しただけなのに

あれを見られてたんだな

黙って身を引くなんて彼女らしいけど…言ってくれたら

なんて、彼女からの連絡が少くなった時にフラれるのが怖くて確かめなかった俺が悪い

駅の反対ホームに、あの頃より可愛くなった彼女を見つけて

当時を思い出して、ちょっと切なくなった

END