第18話 竜が連れかえる

ただいま我が洞穴。


……なんか見る度に周囲の樹海度が増していくな……ドラゴンウンコの性能高すぎない?

アレか、簡単に地形を平野に作り変えられるような力を持ってるから、逆に簡単に環境を戻せる能力も備わっているんだろうか?創造の前には破壊がある的な……ドラゴンはフェニックスだった?いや、そんな、サンドボックスのクラフトゲームじゃあないんだぞ。



「■■■■■■■■■■■……」


俺の背から声が聞こえる。連れ帰って来てしまった金髪の女性だ。

生贄……だと思うんだけど、その割には泣いたり喚いたり震えたりみたいなことは無い。あ、いや震えてはいたけれど、これは多分寒いんだろうな。ドラゴン感覚で空高く飛ぶとヤバイよなと思って、普段より大分低いところをゆっくり飛んだんだが、それでも冷えるよね。ちゃっちゃと降りよう。




と言うわけで到着。

金髪の女性も俺の背から降りる。

……結構な高さがあったんだが、ひらりと舞うように着地したな。

いやカッコいいな。竜騎士みたいな感じで。





………さて、どうするか。




何となくその場のノリというか雰囲気で連れてきてしまったが……実際に連れてきても村人たちはおろか、本人も「それが当然だ」という様子だし間違ってはいないんだろうが……じゃあ連れ帰ってどうするかという事は全く考えていなかった。

これで俺がイケメン勇者なり、はたまた魔王なり、そうでなくても人類にカテゴライズできる存在になっていたのなら、くんずほぐれず、といった展開が期待できたかもしれんが、残念ながら今の俺はドラゴンである。そういった感情は前世の人間の記憶を以てしても湧き上がってこない。


なお、彼女を食うとかそういうのは選択外だ。ちなみに、食うというのは直喩の方な。

例え、ドラゴンとは自分の好きなご飯のオカズ発表する時に「人間」って答えるくらいには人間が大好き(比喩)な種族だとしても、俺は前世持ちとして俺の自我が保つ限り最期まで抵抗するぞ。もし食いそうになったら俺が俺であるうちに自害する。




グルルルル……



さて現実逃避をやめよう。

差し当たりここで生活してもらわねばならん。しかし今まで俺が寝転がる場所程度の場所であったために、建物どころかベッドすら無い、衣食住何もかも存在しない場所である。いや湖はあるから水が飲めるが。彼女のために家具とか創ることが、できればいいんだが……今の俺は日曜大工など絶対にできない程には不器用さんなのだ。まず最初に木材を調達しようとして樹海を再度丸坊主にする光景が見える見える……。



グルルルル……



唸る。


いや、本当にどうしよ……なんとかなれー!って感じで動いてしまったが、いよいよもってどうにもできないな。

やっぱりこう、せめて言葉が解れば……。



「■■■■■■■」



ん?

金髪の女性が何か言い出した。

そちらに目を向ける。



「■■■■■■■」




自分の胸に手を当てて何か言っているが、どうしたんだろう、胸がいたいとか?飛んで移動しているときにどこかブツけたりしたんじゃ……。



ここで俺の脳裏に電流が走る。



イメージ的にはロボットアニメの新しい人類の人たちだったり、あるいは身体は子供頭脳は大人の名探偵であったり、ステルス潜入アクションゲームの敵の頭にエクスクラメーションマークが表示された瞬間など、それらすべてが一度にやってきたような感じだ。俺の頭どうなってるんだ?



きっと彼女は、自己紹介をしているに違いない。



そうと分かれば……俺はすっと、指を伸ばしてそのへんに転がっている石ころを指差す。



「? ■■■■■■■■■■?」


次に、湖のほうを指す。



「■■■■■?」



そして女性へ指を向ける。



「■■?」



うーん、コレは自分の名前を言ったんじゃあないな……そりゃあ異世界にも「私」とか「僕」みたいな一人称とか、アレコレソレドレっていう代名詞もあるだろう、そのへんを見極めていかねば。



再度俺は石ころと湖を指差し……よし、多分「石」と「湖」の発音はこうだな、覚えたぞ!




そうしていると、女性がぽん、と手を打つ。



もしかして俺が言葉を覚えようとしている、と理解してくれたか?それなら素晴らしい、どうしようかと思ったが、このまま異世界会話の先生として色々と教えて欲しい。



そう思っていると、女性は湖に向かっていそいそと服を脱ぎ……いやいやいやいや?!違うって!

湖に入れって意味じゃないって!身を清めろとかそういう意味でもないからな!いやお待ちになって、その湖は飲水にする専用だから!お風呂なら別になんか用意するから!待って!止まって!止まれ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る