第6話 竜が飛びあがる

俺は洞穴へと戻ったあと、自身の能力について本腰を入れて調べていた。



あれは咄嗟のことで悪意はなかった……んだが、しかし被害にあった人らからすれば言い訳にもならんだろう。そもそも事前確認をおざなりにして自分が持つ力のヤバさへの認識が曖昧なままに街に向かったっていう、もとの話をしちゃえば俺が悪いのだ。

……無理矢理に異世界人に責任を問うのであれば、いきなり攻撃をしてきたことくらいか?いや、どう穿った見方をしても兵士らは職務に忠実だったわけだし、それで責任追及されたらたまったもんじゃあないだろう。

とにかく、俺が阿呆なことをした結果が都市破壊とかいう怪獣もビックリな所業であり……初犯であり俺に悪意が無く半ば偶発的な事故である等と言う出来る限り好意的に解釈をしたとしても、俺は「有罪」だろう。……人類の敵認定されたことは間違いないし疑う余地がない。なんなら今この瞬間にも王国の謁見の間で、王様とか教皇猊下とかが勇者鉄砲玉を召喚して「おい、クソトカゲのタマとってこい!」「ウッス!!」みたいなやり取りが為されていても何ら可笑しくない。


考えが自虐的になってしまったが、とにかく今後身の振り方をどうするのか……誤解を解くために出来る限り人間に好感を持ってもらえるよう償いを含めて行動するのか、あるいは「貴様らが望む悪竜魔王になってやろうじゃあないか」と逆ギレかますのか……にしても、自分の能力を把握することは必須事項だと痛感したのだ。


そして自分の能力を把握する方法だが……単純にその辺に向かって魔法をぶっぱしてみたり、なんか壊してみたり、破壊してみたり、熱してみたり、引き裂いてみたり、粉々にしてみたり、面の皮を剝いでみたり、砕いてみたりと、とにかく地道にやるしかなかった。


なにせ、調べる方法がマジで何もなかったのである。普通こういう異世界転生ものにはつきものだろう!と思ってグギャルァグルゥァステータスオープン!!と叫んでみても、その咆哮を聞いた洞穴の周囲を警戒しに来ていたらしい、樹木くらいの大きさの鳥が泡を食ったように逃げ出したくらいで、俺の身体能力だとか、所持スキルだとか覚えている魔法だとかが表示される俺にしか見えないウィンドウ画面なんて一切なかったし、鑑定スキルだとか魔法だとかも使えないし、アイテムボックスもない。水晶玉があれば魔法ランクだとか調べられないかと思ったがそんなモンはない。偶々割った地面の中で見つけた、鉱脈から掘り出してきた透明な石の塊に念じてみたが、発光はしたが魔法レベルが表示されるみたいなイベントも発生しなかった。


それ故に地道に……周囲のものを時折破壊したり、この辺りに住んでいたらしい原生生物の中でも攻撃的なものたちを使って、調べるしかなかったわけだ。


そのおかげで数日……いや、一週間ほどか?それくらいの時間をかけたが、それなりに自身の能力については把握することができた。

まず、先の懸念の通り俺は攻撃技ばかり覚えているフルアタ構成らしい。

殆どと言うのは、攻撃技以外として唯一、が使えるようなのだ。

そして「ようなのだ」というのは、俺が傷一つ負わないうえに、割れた地面とか焦げたり引きちぎれた木とかには効果が無く、そして襲撃してきた原生生物モンスターたちはどれだけ加減してもワンパンで死んでしまい、試す機会が全くなかったためである。

ただこう、なんというか血の巡りが良くなったような、力が沸き上がってくる……筋肉を強化するというよりも、身体の奥底から生命力を巡らせる……ような感覚が身体に走ったため、多分回復魔法じゃあないかな?という、殆ど推測の話なんだが。死んだ原生生物は生き返らなかったので、蘇生効果はないみたいだけれどな。


攻撃魔法?は、まあとにかくびっくりするくらいに豊富に使える。炎は出せるし氷も出るし爆発もおこせるし雷も出せるし風も引き起こせる。呪文とかを唱えているわけじゃあない(そもそも唱えられない)から本当にコレが魔法なのかどうか確証はないけれど、何もない虚空から出てくるわけだし魔法やそれに類するものだろう。

で、この魔法(仮)だが、攻撃として使えそうなものはとにかく一通りできるようで……前世で読んでいたアメリカの超能力を持ったX人間たちだったりとか、大海賊時代に出てくる能力だとか、奇妙な冒険だったりとか、ヒーロー学校とか、ああいう能力バトルものの攻撃手段を思い出しながら試してみたが……概ね再現できてしまった。

ただ、当初の目的だった「手加減に使えないかな」という目論見は崩れ去った……どれもこれも威力が高すぎるというか調整が出来ないのだ。あらゆる攻撃魔法が最上位のものしか使えないっぽい。例えば炎を出そうとしたら火の塊を射出するとかじゃアなくて、眼前の全てが灰燼に帰すし、氷を出そうとすると反対に眼前の全てが凍り付くのだ……いやもう、とにかく広範囲攻撃すぎるのだ。とにかく規模がデカすぎる。


おかげで洞穴の周辺の森だったところは、今や何もない荒れ地に変貌してしまっていた。なんということでしょう、緑豊かな木々は焼け落ち真っ黒こげの炭化した塊に、穏やかな川は干上がり砂が風に舞うのを任せており、美しい花畑は塵芥に変わりました、なんということをしてくれたのでしょう。

いや、もう、環境破壊も甚だしすぎる……とりあえず試す前には付近に人間の村だとかが居ないことはちゃんと確認したけど、これ大丈夫か?流石に焼き払った規模が広すぎてヨシ!とか開き直れんぞこれ。例えばエルフが植林してたりしてないか?エルフの森はなぜ焼かれるのでしょう、ドラゴンが阿呆だったからですとか寓話にもならんぞ。




……さて。




数日かけたこともあって、自身の能力は概ね把握できたと思う。

結論から言うと……これ、まともに攻撃とかしない方が良いなあ。

たとえ、それが魔王みたいな敵とかでも、先の通り威力も範囲もデカすぎて付近を滅茶苦茶に巻き込んでしまう。これで守ろうとした都市とか人間も吹っ飛ばしてしまったら意味がないもんな。



グルルゥ……



唸る。

最強の力を願ったのはいいが、それを振るう機会を願い損ねた。

……まあ仕方がないな、とりあえず軽はずみな行動は慎むことにしよう。

ため息交じりの唸り声をあげ、俺は空を見上げた。



ああ、抜けるような青空だ。

嫌になるほどに真っ青な空だ。



そういえば、ずっと能力を確かめていたから、この世界のことを全く見聞していないんだよな。村や街を見つけたのはいいけれど、逆に言えばそこ以外のことはほとんど知らないわけだ。


羽を動かす。


ぐん、と、まるで掴んで引きずり落とすかのように、頭上の空が目前へと一息に迫る。

浮遊感と、重力すらもこの身体を縛れない解放感に、身体を巡る強い力を感じる。

ああ、やっぱり空を飛ぶのは心地がいい。

ずっと籠っていたから、なんだか全身の筋肉が凝っているような気もする。

ちょうどいい。このまま街のあった場所とは別の方角へ飛んで行ってみよう。

今度はみだりに自分の力を使わないように注意すれば、流石に先の街みたいな悲劇は起こらないはずだ。異世界の都市を見つけても、近づかないように……遠くから様子を伺う様にしよう。

もし攻撃されたら、まあ、その時はその時で考えるけど……うん、基本は逃げるようにしよう。暴力反対、ラブ&ピース!愛だよ愛!




よし。

いこう。



俺は羽をはばたかせる。

先ほどまでの憂鬱な気持ちや、自分の中の不安を吹き飛ばすために。

まだ見ぬ異世界へ、この世界を目に焼き付けるために。


――そして、あわよくば。

俺と友達になってくれる、意思疎通ができる人間を求めて。



俺は洞穴を飛び出し、風をきって空を飛び始めた。

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