ささくれ立つ今日この頃

夕日ゆうや

とさかに来る瞬間。

 ささくれを見て、おれは顔を伏せる。

 ずっとおれの近くで見守ってくれていた人。

 あの人はいつもそうだ。

 おれにはナイショで話を進めて、勝手にこんなことになって。

 とさかに来るのを抑え込んで、おれはすーっと目を細める。

 辛い。苦しい。

 なんで。

 なんでこんなことになるんだよ。

「なんで、あんたはっ!!」

 ささくれだった気持ちに支配されて、父の肩を抱く。

「馬鹿野郎。死んじまったらなんにもできないんだぞ!」

 おれは死んだ父を見て語気を強める。

「父さん!!」

 母さんの死後、こんなにも苦労させていただなんて、想いもしなかった。

 悲しみを父一人に押しつけていた。

 おれは一人で友だちと飲み歩き、ふらつく足取りで実家に帰っていた。

 今ではもう古いしきたりかもしれない長男が家を継ぐ……なんて。

 でもおれが帰ってきたときはいつも食事を用意してくれたり、風呂掃除をしてくれたり……。

 一人になって初めて知ったおれ。

 ささくれは水仕事をするとできると最近になって知った。

 そんな知識がおれの意識を変えていった。

 苦労させてしまった。

 休職してから18年間ニート。

 ニートは人生の答えと考えているバカな時期もあった。

 いや、それがあったからこそ、おれは父さんを弔うことができるのかもしれない。

 おれはまだ知らないことを知っていき、多くの人に迷惑をかけるのかもしれない。

 それでも少しでもマシな人生を送りたい。

 それが父さんの意思だと想った。

 想えた。

 父さんのささくれのように、強く生きようと想った。

「父さん!!」

「はい。カット」

「サムさん、大丈夫?」

 俺は落ち着いた声でサムに尋ねる。

「ああ。大丈夫だ。寝ているだけだしな」

「まあ、そうですよね……」

 苦笑を漏らし、役のサムさんとコミュニケーションをとる。

 彼は血すじもあってか、鼻筋が通っているし、顔もこゆい。

「なんだよ。冗談だって」

 笑いながら俺の背を叩くサム。

 その笑顔みて俺も笑い出す。

 俺の役をふと思い出し、父ちゃんの声を聞いておこう。


 そう思えた。


 サムのささくれメイクはまだ落ちていない。

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ささくれ立つ今日この頃 夕日ゆうや @PT03wing

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