ささくれの薬指

アキノリ@pokkey11.1

第?章 告白

結婚しよう

大切な想い

俺の名前は祐島若菜(ゆうしまわかな)という。

享年17歳。

俺は...1年後の今、幽霊となっている感じだ。

1年前の震災で圧死したのだが成仏が出来ない。

天使が迎えに来るかと思ったがそれも無いのだが。


どうして俺だけは死んだのに成仏できない?

そんな事を考えながら夜中にレンガに座ってから家があった場所を見る。

今はその場所は公園になっているが。

実はこの街は約1年前に震度7の地震に襲われている。

大災害だった。


そして俺、祐島若菜も巻き添えになり。

崩れた住宅の下敷きになってそのまま死亡した...筈だった。

目が覚めると死んでいる身体は見えるものの俺自身の意識はこの世にあったままだったのだ。

俺は顔に白い布が被せられた痛々しい俺の遺体を目にした。


その傍で許嫁の...富島夕凪(とみしまゆうなぎ)が涙を流して嗚咽を漏らしていた。

当時は17歳であった彼女。

俺はそんな姿を見ながら目を逸らしながらまた目を合わせながらかれこれ1年以上、成仏できないで居る。

困ったものだ。

まさかずっと夕凪の家に滞在する訳にもいくまい。


「...やれやれ」


俺はそんな事を呟きながら公園に置かれているブランコを動かす。

それから飛び乗ってから動かす。

この街が大震災に遭って1年経ってその分...虚しいままだった。

復興は結構進んでいるが。


夕凪はあの後、恋人を1年近く作って無い。

目に見える限りでは男性を人を避けている感じだ。

俺はその事もあって嬉しく思いつつも悲しげに思っていた。

もうこの世界に生き返ることは出来ない。


夕凪の子供になりたい。

輪廻転生したい。

そう思いながら俺は天国を見上げるがその天国すらも見えない。

俺はどうしてこの世界に居る?

そんな疑問ばかりが浮かぶ。


「...すでに死んでいるにも関わらず」


そんな事を呟きながら俺は真夜中の空を見上げる。

そして盛大に溜息を吐いた。

そうしてから俺はブランコから飛び出した。

それから歩いて暇を潰し始めた。


「...」


365日間ずっとこんな感じだった。

何も出来ず365日悩む感じだ。

そもそも俺は何の為にこの世に居るのか。

そう思いながら俺は歩いていると夜が明けてきた。

それから時刻は午前7時を回った。


俺は恒例の様に夕凪を見守る為に夕凪の家に向かう。

とても生真面目な夕凪だ。

午前7時には家を出てからそのまま学校に向かう。

それも病を一回もしたことが無い。

つまり3年間、皆勤賞目前であるのだ。

夕凪は家を出てから鍵を掛ける。


親父さんとお母さんは先に仕事に出ている為にいつも夕凪は1人っ子で最後になってしまう。

こんなに成長した夕凪を見れるとは思わなかった。

あの泣き虫が生徒会長になったしな。

俺と過ごした15年間。

彼女にとってはどうあったのだろうか。


そう思いながら見ていると夕凪は周りを見渡してから高校とはまるで別の方向に歩き始めた...え?

俺は衝撃を受けながら夕凪に付いて行く。


それから駅を通って電車に乗り始めた夕凪。

いや待て。お前は徒歩通学だろ。

どこに行くつもりだ。

皆勤賞の高校に間に合わなくなるぞ。


「...?」


俺はよく分からないまま夕凪に付いて行く。

このままでは高校が。

そう思ったので導こうとしたのだが。

夕凪は何かを取り出して見つめ始めた。


「...待っててね。若菜。私、18歳になったから結婚しよう」


そう言いながら夕凪は嬉しそうにそれを見る。

それは...震災があって燃えてしまった俺の家から発見された婚約指輪だった。

俺は衝撃を受ける。

それから嬉しそうな夕凪の顔を見る。


「今日は...若菜との18回目の誕生日だよね。だったら学校をサボっても良いよね」

「...」


たったそれだけの為に皆勤賞を捨てるのかよ。

そう考えながらだったが俺だったが。

気が付くと泣いていた。

それから涙が俺の膝に落ちる。

そんなのもう忘れて良いじゃないか。


「...」


駄目だ夕凪に触れたい。

今直ぐに触れたい。

どれだけあっても良いから。


神様。

そう思いながら俺は夕凪を見る。

夕凪は電車に揺られながらそのまま俺の墓が在る駅で降りた。


「...若菜」


そう呟きながら夕凪は歩き始める。

それから夕凪は俺の墓がある場所にやって来た。

その場所は共同墓地。

実は俺は桜への樹木葬になっている。

それは...形ある輪廻転生をこの世に残したいという残された俺の親族の意向だった。


俺はその樹木を見ながら樹木の足元を見る夕凪を見る。

夕凪は泣き始めた。

「将来、結婚するって言ったのにね。全部...震災が奪っちゃった」と言いながら指輪を抱き締める。

こんなにも...俺を愛してくれていたんだな。


「...」


そんな事を思って居ると風が強く俺に吹いた。

それから「何だよ」と言いながら俺は樹木を見る。

すると目の前に居る夕凪と目が合った。

背後を見るが何も無い。

間違いなく夕凪は俺を見ている。


「え?」

「...夕凪...?俺が見えるのか?」

「...げ、幻覚じゃ、ない?」

「...」

「...」


そのまま涙が溢れてから号泣する夕凪。

俺はその姿を見てから涙を浮かべる。

そして夕凪の手を見る。


火傷が治らない手。

そしてささくれの傷。

これは俺を大震災が起こった時に必死に救おうとした証だ。

1年経っても消えてない様な状態だ。

そんな夕凪を見る。


「...俺な。...実はまだ天国に行って無いんだ」

「...そっか。...そうなんだ」

「...だけど行けない理由が今分かった気がする」

「...え?」

「思い残す事があったんだ」

「...え?それは...?」


俺は夕凪に改めて向いた。

それから俺は夕凪から受け取りたいという感じで手を差し出す。

すると夕凪はハッとした感じで鞄から直ぐに指輪を取り出す。

そして俺の手に震える様に渡してくる。

それをゆっくり受け取った。


「...お前と結婚してないという事。それがきっと心残りなんだろう」

「...若菜...」

「...まだ俺を想う気持ちは有るか?」

「当たり前でしょ。私は若菜以外は見てないんだから」

「そうか。なら成仏するのを手伝ってくれ」

「...は?い、イヤ。そんなの。嫌だ!」

「...それは分からんでもない。だけど俺は今はお前の傍に居る事は出来ない。だって俺は幽霊だしな」


そう言いながら肩を竦める俺。

それから夕凪を見る。

夕凪は悲しげな眼で俺を見ていた。

子供の様に目を潤ませてだ。

俺はその姿に「大丈夫。また会えるさ」と笑顔になる。


「...」

「...結婚しよう。夕凪」

「...うん」


それから俺はそのまま夕凪とキスをした。

そして海の見える丘まで来た。

ここは見晴らしが良い。

そう思っていつか夕凪と一緒に来たかったのだが。


「...ねえ。本当にこの世から成仏しちゃうの?」

「そうだな。...この世の今生きている人に迷惑を掛ける訳にはいかないしな」

「...いっちゃやだ」

「...お前は子供か?」

「生徒会長だろうが皆勤賞だろうが大人だろうが何だろうが私は貴方の許嫁。子供っぽいのも貴方だけ。だから嫌」

「...夕凪。そうもいかない。...俺が居てまた最悪な状況になったらどうするんだ」

「...でも...若菜!」


そう言いながら必死な目を俺に向ける夕凪。

俺はその姿に沈黙しながら考える。

そして俺は「成仏しても待ってるよ。俺はお前を」と真剣な顔をした。

夕凪はそんな顔にまた号泣し始める。


「...それまでは生きていてくれ」

「...」

「...お願いだ」

「...分かったけど...どうするの」

「これをお前の薬指に嵌めてから考えよう」


そして俺はひざまずいた。

それから夕凪の左手に触れる。

そうしてから俺は笑みを浮かべて夕凪の薬指に指輪を嵌めた。

すると夕凪は「...」という感じで感動したのか涙をまた浮かべる。

それでまた号泣した。


「はは。子供っぽいのは昔からちっとも変わらないな」

「私は貴方が居なくても平気な様に...生徒会長になった。...でもずるい」

「...」


するといきなり空が晴れ渡った。

それから俺の元に天から光が集まってくる。

成程な。


これが心残りだったんだな。

青ざめる夕凪。

足が浮いた。


「待って!お願い!待って!!!!!若菜!私は...まだ」

「...大丈夫だ。お前ならきっとこの先も大丈夫。もう今となっちゃ俺の手助けも要らないぐらいに成長している様だしな」

「...若菜...そんな事ないよ」

「...大丈夫。俺な、いつでもお前を見守っているから」


そして俺はもう一度、夕凪にキスをした。

それから俺は天に上る様に夕凪から手を解いて離れていく。

夕凪はずっと俺の意識が消えるまで見守ってくれていた。

空を見上げてくれている。

俺は空を飛んでいた。


「ありがとう」


そんな呟きにしか聞こえない声がした。

驚きながら周りを見渡すが声の主が分からない。

でも何となく分かる。


今なら。

俺は夕凪に後は任せ。

そのまま空に有る光の輪を潜って行った。


fin

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