【KAC20244】百合に挟まりたかった男のささくれの話。

XX

ある男の夢の話。

 高校生のときに、まるでささくれのように俺の心に付き纏っている痛みの思い出がある。


「君の全てが愛おしい。お願いだ。付き合ってくれ」


「すみません。私は刹那的な生き方してる人は生理的に駄目なんです。二度と話し掛けないで下さい」


 頭を深々と下げられて拒否られる。

 ……一瞬で玉砕した。




 俺は百合に挟まる男に憧れていた。

 夢が叶えられるのであれば、何年繋がれようと構いやしない……。


 百合に挟まり、百合ップルの片方をNTRし、俺色に染める……


 学生時代。

 俺は百合作品を見ては、NTR妄想をし、百合豚のクズ共と死闘を繰り広げていたものだ。

 教師から厳重注意を受けることになったことも1度や2度では無い。


 最初は2次元の百合で満足していた。

 だがその対象が3次元に向くまで、時間はそう掛からなかった。


 そして、実行したのが最初のアレだ。


 彼女らは、生徒会の会長と書記だった。

 リアルの百合。


 それをナマでみることになったのが彼女たちだ。


 放課後の生徒会室で、こっそりキスしている姿を目撃したときは


「見つけた……! 俺の夢のカタチ……!」


 そう思い、感激したものだった。


 だけど……

 精一杯、その百合ップルの片割れ、書記ちゃんの方にモーションを掛けて、掛けた末にアタックしても。

 返って来た言葉がそれで。


 ……あのときは辛かったよ。


 念のため、会長ちゃんの方にも同じ台詞でアタックしてみたが


「五味山くん、書記にも同じことを言ったらしいわね。あなた最低よ」


 ……ゴミを見る目で見られたのがとても印象に残っている。




 俺が生まれて初めて見た理想郷ラピュタは、俺を拒絶した。


 俺に「百合に挟まる男」になる夢を叶えさせてくれなかった。


 ……夢ってのはね、呪いと同じらしい。

 夢を叶えられない者は、ずっと呪われたままなんだ。


 そんな言葉を、昔大好きなテレビ番組で聞いたことがある。


 本当にそうだ……。


 だから俺は


 その後、必死で学業を頑張り、そして人を統べる術を有力者に弟子入りして学び取り。


 自分の人間としての力を高めることに全力を傾けたんだ。


 それは……


 あの百合ップルを、金の力で雁字搦めにして、俺のモノにするために。

 学生のときはなかなか気づきにくいけど。


 金の力は恐ろしいものなんだ。

 的確に使えば、相思相愛の恋人同士を引き裂くことだって可能なんだ。


 俺の夢は百合に挟まる男。

 俺の男としての魅力でそれが叶わないなら、もう金の力に賭けるしかない。


 そして俺は……


 20年賭けて、複数の企業を経営する大金持ちになった。


 そのときにはもう俺は、40代に手が届く年齢になっていたけど。

 これで……俺はやっと夢を叶えることができる。


 俺は探偵を雇い、彼女らの現在を探った。

 どこかで今も、清く百合ップルを続けているのだろうか……?


 だが、俺は探し出して


 ……ガッカリした。


 あの2人は……それぞれ、別に男を作って結婚していたんだ。

 すでに子供も複数いるらしい。

 どうも、学校を出た後に「それぞれ男にも目覚めた」らしいんだ。


 そんなことって……!


 泣いたよ。


 俺が……堕としてやりたかったのに……!




「社長。俺は同期の高根たかねさんが好きなんです」


 俺が特に可愛がっている部下をサシ飲みに連れて行ったとき。

 向かいの席に座っているそいつがそんなことを口走った。


 俺はチューハイを口にしながら


「そうか、頑張れ」


 応援した。

 恋は応援するものだ。


 だけど


「……だけど彼女は営業成績トップ! 俺は2番手! ……彼女を仕事で追い抜くまで告白はしません! それが男としてのプライドです!」


 この言葉を聞いたとき、俺は思わず一喝していた。


「ふざけるな! 好きになったならすぐに行動を起こせ! お前が力を付けたとき、彼女が今と同じ状態である保証なんてどこにも無いんだからな!」


 ……これ以上、俺と同じ人間を見たくなんかないんだ!

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【KAC20244】百合に挟まりたかった男のささくれの話。 XX @yamakawauminosuke

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