弊誌独占スクープ! わたしはあの将軍さまにDVを受けていた!

タカテン

Aさんは泣きながら私に訴えた!

「これを見てください」


 そう言って彼女は手背のまま両手の指を広げてみせた。

 

「これはひどい」

「ですよね……」


 彼女が悲しそうに自分の指先へ視線を落とす。

 若い女性らしくしなやかで細い彼女の十本の指は、しかしどれもが無残にもささくれていた。

 

「いつからこのような状態に?」

「分かりません。気が付いたらこんな事に……でも!」


 彼女が語気を強めて顔を上げる。

 

「やったのは誰か分かっています! 冬将軍……あいつが! あいつが私をこんな目に遭わせたんです!」


 そう訴える彼女の瞳には、決して泣き寝入りなどしないという強い意志が復讐の炎となって燃え盛っていた。

 

「冬将軍……あの冬の大人気者である彼が?」

「間違いありません! あいつは冬というごく当たり前の自然現象顔しながら、その裏では寒さと乾燥で私たちを苦しめているのです!」

「私たち? では、被害者はあなただけではない、と?」

「ええ。私はまだただのOLですのでなんとかなっていますが、友人はささくれの痛みに耐えきれず皿洗いのバイトを辞めざるをえませんでした」

「なんてことだ……」

「お願いです、私たちを助けてください! こんなこと、警察に言ってもまともに取り合ってくれなくて、もう頼るのはあなた方しかいないのです!」


 両目から涙を流し、頭を深々と下げる彼女。

 その姿はとても悲痛であり、その怒りは私の心を強かに打った。

 

「分かりました。あなたのその訴えを日本中の皆さんに知ってもらいましょう」

「本当ですか!?」

「ええ。ところで先ほどは知らない間にささくれが出来ていたと言っていましたが、そうなる前に何かおかしなことはありませんでしたか? 例えば急に眠くなったりとか?」

「ああ! そう言えばある寒い日の夜、ストレス発散の為に自宅で大食いしたのですが、その時に突如として睡魔が襲ってきて」

「やっぱり。それは冬将軍が一服盛った可能性がありますね!」


 こんな調子で彼女から情報を聞き出すこと二時間。

 私は冬将軍が黒だと確信していた。

 証拠はないが、こうも疑惑だらけだともはや間違いない。 


 気分は高揚していた。

 こういう警察では手も足もでない社会悪を暴き出すことこそが、我らマスコミにのみに許された高貴なる使命! それを果たせたことが純粋に嬉しかった。

 

 あとはまぁ、この大スクープで雑誌が飛ぶように売れることも、うん、かなり嬉しかった。

 

 📖 📖 📖 📖 📖 📖 


 数日後。

 発売された雑誌に私の記事は載っていなかった。

 編集長も乗り気だったのが、直前になって飛び込んできた大スクープに差し替えられたのだ。

 

「くそう、まさか春一番が花粉症と裏で繋がっていたなんて」

 

 春に吹き荒れる春一番と、冬に猛威を振るう冬将軍の知名度にはさほど差がない。

 しかし、花粉症とささくれに相当な差があったのが明暗を分けた。

 

「せめてお題がインフルエンザなら勝負出来ていたのに……」


 ささくれた心を抱きながら、私は人知れずそんなことを呟くのであった。

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