ささくれエピソードを語る男

烏川 ハル

ささくれのエピソード

   

 ささくれのエピソード? それも肉体的なやつじゃなくて、心のささくれ?

 要するに、微妙に心に引っかかってる……みたいな話か。

 うん、俺にもあるよ。

 今まで誰にも言えなかったけど、それこそささくれをむしるみたいに、思い切って告白すると……。


 小学生の頃、裏山でパンダが目撃される、って噂話があっただろう?

 だけど近くに動物園なんてないから、そういう場所から逃げ出したパンダじゃない。ならば本物のパンダのはずもなく、すぐに「パンダのお化けが出た」って話に変わった。

 こっそりパンダを飼ってた家があって、でも個人飼育は難しいから死なせてしまった。飼ってたこと自体秘密だから、死体の処理も秘密で、裏山に埋められた。そのパンダが成仏できなくて……みたいな噂だったよな?


 うん、あの噂の出所は俺だ。パンダ探しを止めるためにね。

 ほら、普通に考えたら本物のパンダじゃないってすぐにわかるし、だったら誰かがパンダに扮してたことになる。じゃあその「誰か」を探そう、って展開になりそうだろ? でも「お化け」って話になれば探さないよな?

 そもそも最初に目撃された「パンダ」自体、俺だったのさ。ちょうど裏山の竹やぶに忍び込んで、たけのこ泥棒の最中だった。

 パンダの着ぐるみ着てたわけじゃないけど、たまたま白と黒の服で、しかも場所が竹やぶ。笹竹からの連想もあって、パンダと思われたらしい。


 つまり、たけのこ泥棒の現場見られたのを誤魔化すためのカバーストーリー。それが、あのパンダのお化けの噂だったのさ。

 ふう、ようやく告白できた。一人で心に仕舞い込むのもやめて、これで心のささくれも抜けた気分だぜ。


 ちなみに噂では、お化けは「笹くれ、笹くれ」って言いながら追いかけてくる、って話だったが……。

 その部分は俺が言い出したわけじゃなく、途中で話に尾鰭がついただけだぞ?

 もしそっちも俺なら、この話だって「ささくれ」じゃなく「笹くれ」エピソードになっちまうよな。




(完)

   

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ささくれエピソードを語る男 烏川 ハル @haru_karasugawa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ