多分、被害者多数になった理由

 ここまでのやり取りでわかってもらえると思うけど、とにかく陽子ちゃんは落ち着きがない。それは普段からそんな感じなので、移動手段も基本的に「走る」である。


 危険だし、陽子ちゃん自身もそれは理解してるんだけど、どうしても抑えられないみたいだ。体も小さくてすばしっこいので、今は学校中で、なぁなぁ、みたいな状態なんだけど、風紀副委員長、同じ二年の古尾だけはキチンと注意する。


 かなりキレ気味に。

 とても声優の下野紘さんに似てる声で。汚い高音と言われた、あの声で。


 陽子ちゃんは、そんな古尾にちゃんと礼を言って、その場では大人しくなるんだけど、やっぱり抑えきれない。

 すると古尾がまた血管切れそうな勢いで怒る、の繰り返し。あれは古尾の絶叫の方が風紀を乱しているんじゃないかと思う。


 そんな普通なら天敵認定されている二人なのに、やっぱり陽子ちゃんの距離感はおかしくて、今回は何を求めて古尾に相談を持ち掛けたのか。


「それはえっと……そうそう。英治君と小澤さんは普段から一緒に居たりとか、そういうことは無いって教えてもらっていたのよ」

「はい? 妙に建設的だな」


 江上が感じたそんな疑問については私も同意見だ。

 やっぱり、なにかおかしい。そこで私は根本的なところを確認してみる。


「だから、そういう事じゃなくて、相談したいんでしょ? それならもっと陽子ちゃんが顔を出してるクラブとかあるじゃない。具体的な名前はよく知らないけど……ああ、料理部とかは良いんじゃないの?」


 陽子ちゃんは落ち着きがない分、顔が広い。

 それが理由になるのかわからないけど、学校中を駆け巡って、本当に色んなところに知り合いがいるのは確かだ。


 私は陽子ちゃんの交友関係の全てを知ってるわけじゃないけど、料理部は確実に交友関係に含まれているはずだ。お菓子貰ったことがあるし。

 それに女生徒も多かったはずだ。だから私たちに相談持ち掛けるよりも良いはず。


 「相談」という名の「慰め」を待ち望んでいるなら。


「うん。料理部はもちろんだけど、演劇部とか、文芸部とか」

「お、おう」


 何だ。もう陽子ちゃんは適切だと思われる部活には顔を出しているのか。

 うん? そうすると生徒会とかはどこから出てきたんだ?


「そういう部活には昨日行ったの。それがあんまり真剣に聞いてくれなくて」

「あ~~……」


 私の声が思わず間延びしてしまう。

 陽子ちゃんは、こんな感じだから、何となく周りから軽々に扱われているきらいがある、と私は思っていた。


 恐らくそんな空気がその場を占めてしまったか、実際に軽々に扱われたのか。

 元々、どう答えれば良いのかわからない相談であることは確かではあるんだけど。


「それでね。今日は遊野ちゃんに相談しに行ったの」

「げ」


 その名前が陽子ちゃんの口から出ると、私は思わず私は呻いてしまった。

 遊野ちゃんこと、遊野先生は養護教諭でいわゆる保健室の先生だ。

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