闇の淵に堕ちる

紫泉 翠

ささくれた魂

 悠斗は、人里離れた山奥にある小さな家で孤独に暮らしていた。彼は幼い頃から心にささくれを抱えており、世間からの理解や温かさを求めても、それは得られなかった。というのも、彼の両親は彼がまだ幼い頃に他界し、彼は親戚や里親のもとを転々とすることになった。しかし、どこに行っても彼の心は受け入れられず、理解されることはなかった。学校でも周囲との関係が上手くいかず、彼はますます孤立していったのだ。過去のトラウマや孤独感から、彼の心は次第に腐っていくように思えた。


 自然が大好きで、山や森を探検することが彼の唯一の楽しみだった。日々、彼は山を歩き回り、自然と向き合いながら内なる葛藤と戦っていた。彼は人とのコミュニケーションを避け、ただ静かな自然の中で自分と向き合うことに喜びを見出していた。自然の中で彼は心の平静を取り戻し、自分自身と向き合うことができた。

 しかし、その孤独感や受け入れられなさは彼の心をささくれ立たせ、時には深い憎悪や怒りを生み、彼をますます心の奥深くに閉じ込めていくことになった。


 ある日、彼は山で遭遇した若い女性に興味を抱く。彼女の笑顔や明るさが、彼の心に久しぶりの温かさをもたらした。彼女が唯一彼の心を癒す存在だった。しかし、その出会いも束の間で、彼女は突然の事故で命を落としてしまった。彼女が亡くなったことで彼の心は再び崩れ落ちたのであった。


 悠斗の心はさらにささくれ立ち、憎悪や怒りに満ちた闇に包まれていく。彼は人々に対する不信感や怒りが高まり、自らの孤独や苦しみを他者に報いるようになりついには山を出て街へと向かう。彼は自分のささくれた魂に駆られ、自分の内なる闇に飲み込まれ、彼は殺人事件を犯すことで自らの苦しみを晴らそうとしたのであった。


 最初のうちは自分を認めてこなかった、親族や友人などであった。しかし、その人達をこの世から消したとて、彼の心の傷はいえることもなく、更なる闇に吞まれんとしていた。

 その時、偶然血を分けた妹:美咲が家に尋ねて来た。彼女には普段優しく接しており、時々、箱の中にメモを入れて彼女が住んでいる家の庭においておいたりもしたのだが、今回はそう優しい態度をとることが出来なかった。


 気が付いたら、彼は妹までも殺めてしまったのだ。彼と比べると美咲は誰とも心を通わせており、彼とは対照的ではあった。しかし、妹までも殺めてしまった彼を止める存在はいなくなってしまった。


 再び街に降りては無差別に、手当たり次第に命の灯火を消して回ったのだった。

 彼の行動は街に恐怖と混乱をもたらし、無差別殺人のニュースが報道され、街は更なる恐怖に包まれる。

 捜査当局も手をこまねいてはいられなくなる。しかし、悠斗の心はすでに彼の内なる闇に囚われ、彼は自らの行いの意味や後悔・罪悪感に気づくことはなかった。ただ、自分の心の闇に酔いしれていたのだった。


 やがて、悠斗は自分の行動の意味や目的を見失い、絶望の淵に沈んでいく。

 彼は、また山に引きこもり、事件は迷宮化していくのであった。

 彼のささくれた魂は、街をも呑み込み、最後には彼自身をも飲み込んでしまうのか──。


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