エッセイ【めっちゃ痛い】あれは忘れもしない、そう卒業式のことだ。【血と涙の卒業式】

花月夜れん

小学校の体育館は寒かった

 もうすぐ春が来る。桜咲く入学式。

 だけどその前にある卒業式。小学校六年生の私は寒い体育館のパイプ椅子の上に座っていた。

 前方と後方に四か所ヒーター的なものが置かれていたが、とにかく寒い。屋根が高いせいか、換気のために開けられている窓や出入り口の隙間のせいか。


「本日は皆様ご卒業おめでとうございます。うんぬんかんぬん――」


 校長が長い長い話を聞かせてくる。これがまた、眠気を誘ってくる。


(ダメよ! こんな寒い中寝てしまったら死んでしまうわ。起きて私!!)


 そんなオバカな事を考えながら、船を漕ぎつつ耳を傾ける。有名なRPGの睡眠魔法ラ◯ホーってきっと校長先生みたいな長い話を唱えてるに違いない。

 とりあえず必死に耐えた。一瞬春の花畑が見えた気もするがなんとか耐え抜いた。


「次はP◯A会長の□◯様からの祝辞です」


 第二ラウンド開始である。

 リハーサルですでにわかってはいたけれど苦行である。頭をカックンカックンさせてる仲間はそれなりにいる。けれど、私の隣の二人はしっかりと起きてるタイプだったので負けていられない。


「うんぬんかんぬん――ラリ◯ー強!!」


 さっきより強い魔法を放たれ私の船漕ぎに力がこもる。これ以上はきつい!!

 ふと、手が目に入った。何かで読んだのだ。手のツボには目を覚ますツボがあるはずだと。

 睡魔と戦いながら右手と左手を少し持ち上げる。そしてきになってしまった。


【左手親指のささくれ!!】


 わー、かなりささくれてるなぁ。少し目が覚めた。そしていつものように私は手を動かした。ささくれ、それはむしるもの。


 ぷちっ


 いつもならそれでとれていた。なのに今回のは強かったらしい。少しの力だと取れなかったようだ。

 もう少しかな。


 ぷちっ


 引っ張る。とれない。


 ぴりりりり


 どこまでついてくるの?


 ぴっ


 ふぅ、やっととれた。

 …………デカくない?

 え、これヤバくない?

 親指の第一関節までささくれというか皮膚がとれた。しかも血がNIJINDERUYO!!


 止まれ止まれ止まれぇぇぇぇぇ!


 私は必死に親指を握りしめる。完全に目が覚めた。


「次は卒業証書授与です」


 ナンダッテー!?

 私の学校は人数が極めて少なかった。なので全員授与の形だったのだ。

 じわじわと血が滲んでいる。こんな手でもらったら、血の卒業式に――。


 私の名前が呼ばれた。血は垂れるほどではなかったようだ。痛みを我慢しながらなんとか証書を受け取った。


 さよならの歌を歌い卒業式も終わる。退場すれば終わりなのだ。まわりが次々に泣き出す。

 私も涙が止まらなかった。

 ささくれをむいた傷で痛みが限界だったのだ。


 私の卒業式はささくれによって血と涙の卒業式になった。

 忘れられない思い出である。

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エッセイ【めっちゃ痛い】あれは忘れもしない、そう卒業式のことだ。【血と涙の卒業式】 花月夜れん @kumizurenka

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