【KAC2024】あの日のささくれは、今。

MACK

* * *

 あれは私が花も恥じらう女子高生であったとき。


 遠い過去なのに時代の空気感や風の匂い、心情を昨日の事のように思い出せる。特定の言葉が出て来なくなって、「アレ」だとか「ソレ」だとか言うようになっても、あの日・あの頃の青春の煌めきは忘れられない。


 放課後、私は学校の裏にある機材倉庫前の水道でクワを洗っていた。女子高生が学校でクワを洗う絵面は、風情がある。シチュエーションに困惑するかもだが、単に農業科ゆえの平和な日常風景。なお農業科であるという事、定時制だった事で国や地方自治体から補助金が積まれており、なんと教科書代のみの年間1万円で通えるのであった。

 そんなお得な学校が自宅から徒歩圏内。なんなら直線距離なら300メートル程の位置に。

 しかし残念な事に学校と自宅の間にはそれなりに立派な川が流れていて、橋のある道を使って大きく迂回が必要で、目の前にある学校に毎日2km程歩いて通学していた。

 余談だがその川に、砂利を取るための重機が渡れるよう二本の鉄筋を渡して簡易橋にする事があり、設置された時は嬉々としてそれを渡って学校に行った。当然普通に危ないので、バレて滅茶苦茶怒られた。無邪気な女子高生だったので許して欲しい。


 そんな感じで無駄に元気一杯だったので、素手でわっしわっしクワの柄を洗っていた。何本めかのクワのとき


「イテッ」


 右手の親指外側にピリっとした痛みが走り、見ればクワのささくれが刺さっていた。ピアッサーのように一瞬の出来事だったので、イテッで済んだのだけど、なんとささくれが入ったまま抜けない。7mm程の木の枝が入っているのが外から触ってわかる。だが完全に皮膚の下で見えない。血も出ていない。


 あろうことか、それを放置した。今、破傷風の予防接種があって良かったと感謝の気持ちでいっぱいだ。


 そしてその時のささくれは、今も棒状のしこりとなって私の親指にある。


 こんな形だが青春は心体に刻まれ、忘却を許さない。


 

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