箱の中から箱の外へ

水面あお

第1話

「サクラ、今日はこの服に着替えましょ!」

 

「サクラ、ハンバーガー美味しい?」


 声をかけられている。

 でも、返事はできない。

 私の口は動かない。

 人形だからだ。

 この女の子によれば、私はサクラという名前らしい。

 目の前には家具が並んでいて、私は箱の中にいる。

 箱の外の世界は、ほんの少ししかしらない。

 この女の子、ヨナと出会う前のことしか。

 私はヨナと会ってからは、ずっと箱の世界にいる。

 ヨナは箱の中に人形や家具を配置して遊ぶことが好きなようだ。

 だから私はずっとずっと箱の中。

 窮屈だとは感じない。

 つまらないとは感じない。

 だってヨナが頻繁に箱を開けて、私に語りかけてくれるから。

 

 *****

 

 ある日、箱の中の住人が増えた。

 ヨナによれば、ユキというらしい。

 私とユキはお友達で毎日仲良くお喋りする。

 そうヨナは言っていた。

 ユキは白くて透き通った長髪で、大きくてくりりとした水色の目が可愛らしい女の子だった。

 そういえば、私は自分の姿を見たことがない。

 どんな姿をしているのだろうか。

 とても気になる。


 ***** 


 ユキも私みたいになにか考えたりするのだろうか。

 もしするのだったら話してみたい。

 きっと本当の友達になれる、そんな予感がした。


 ***** 


 最近ヨナが箱を開ける頻度が減ってきた。

 ヨナは遊ばない時、箱に蓋をしている。

 視界は真っ暗で何も見えない。

 ヨナが開けてくれないと窮屈だよ。

 ヨナが語りかけてくれないとつまらないよ。


 *****


 とうとう箱は開けられなくなった。

 でも箱の外からはヨナの声がする。

 ヨナは元気なのになんで開けてくれないのだろう。

 一緒に遊びたいよ。


 *****


 あれからどれほど経ったのだろう。

 途方もないほど長い時が経過した。

 箱が開かれた。

 かつてないほど、嬉しかった。

 久々に見るヨナは大きくなっていた。

 ヨナは私を掴むと何かへ入れた。

 そしてユキも入れられた。

 家具も入れられた。

 箱の世界から抜け出した私たちはどこへ行くのだろうか。

 楽しみだな。

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