お隣さんのひまわり

トノホ

お隣さんのひまわり

今日は休みの日。

僕が家事を任されている土曜日だ。

僕は小学五年生になって、庭木の剪定も任されるようになった。

庭にはいろいろな種類の木があるから、剪定の仕事をする時期は多い。

これが僕にとって一番の楽しみで、剪定の仕事がある日は真っ先に庭に出る。

今日はサザンカとツバキの剪定の日だ。

さっそく庭に出て、軍手をして剪定ばさみを手に取り、サザンカの枝をパチ、パチ、と枝を切っていく。

外に伸びた部分を切って、形を整えていく。

内側の密集した部分を切って空間を空けることで、風通しや日当たりを良くする。

邪魔になりそうな枝を切る。

お父さんに教わった通りに切っていくと、見た目もよくなり、内側もある程度空間が開いた。

僕はサザンカの剪定を終わりにして、ツバキに取り掛かることにした。

僕はツバキの生えている塀の方に寄っていき、とんがり帽子の形になるようにぐるりと切っていく。

外側の枝を切っていき、後ろのほうに差し掛かった時、枝と一緒に、パチッ、と違うものを切った感触がした。

これは、塀の向こうだ。僕は何を切ってしまったんだろう。

恐る恐る塀の向こう側をのぞき込んでみると、ひまわりが芝生の上に落ちていた。

血の気がさっと引いて、頭が冷えていた。

まずい!あれはお隣さんが友達から種をもらったと言って、たいそう大事に育てているひまわりだ!

この前お母さんが家の前でお隣さんと話していた時に聞いたんだ……。

とりあえず、謝らなきゃ……。

謝る前に気づかれたら第一印象が切られたひまわりになっちゃう、急いで行かないと。

僕は急いでお隣さんの家に謝りに行った。

お隣さんは一瞬怖い顔をしたけど、なんてことなかったように許してくれた。

なんでも、まだ他に育てていたひまわりがあって、それを庭に出すらしい。

もらったひまわりの種がひとつじゃなくてよかった。

でも、次ひまわりを切ったらちょっと大変なことになるかもしれないって言われて、怖かった。



今日は休みの日。

僕が家事を任されている土曜日だ。

六年生になって、庭木の剪定にも慣れてきた。

今日はサザンカとツバキの剪定の日だ。

去年のこともあって緊張しているけど、気を付ければ大丈夫なはず。

まずはサザンカ。

去年と同じように、外に伸びた部分と、内側の密集した部分、邪魔になりそうな枝を切る。

パチ、パチ、と切るときれいになっていき、僕は問題なくサザンカの剪定を終えた。

そりゃそうだ。

サザンカは庭の絶妙な場所にあって、どこの家にも接していない。

問題は、ツバキだ……。

僕はツバキを慎重に切っていく。

パチ、パチ。

手が震える。

パチ、パチ。

震える手を抑える。

パチ、パチ。

それでも手は震え、


パチッ。


あ……。

ほかの何か、いや……ひまわりを切った音がした。

僕は塀の向こう側をのぞき込んだ。

ひまわりが落ちていた。

これは、とてもまずい。

次ひまわりを切ったら、大変なことになるらしい。

次って、今。


仕方がないので、謝りに行った。

お隣さんはたいそう怒って、お母さんに話に行くって。

僕は血の気が引きすぎて逆に潔くわかりましたと言った。

お隣さんがお母さんと話し終わると、お隣さんの機嫌がよくなっていた。

お隣さんは高級そうなお茶と、僕がいつも食べている、お母さんの作ったメレンゲクッキーを食べていた。

おかしい。

いや、別におかしくないのかもしれないけど……。

大事なひまわりを切られていやだったはずなのに、今はこんなにルンルンだ。

別に大変な目にもあってないし……。

僕はお隣さんに聞いた。

「ひまわりって、もうないんですか?その、申し訳なくて……。」

「えっと、あー、うん。まだあるから、だいじょうぶよ。んむ、ぜんぜん、気にすること、んくっ、ないわ。」

お隣さんは食べながらしゃべっていた。

ちょっと品がない。

もしかして、お茶とお菓子を楽しみたかったんじゃ……。

僕は覚えておくことにした。



今日は休みの日。

僕が家事を任されている土曜日だ。

あれから一年経って、僕は中学一年生になった。

僕はサザンカの剪定を後回しにして、ひまわりを切ってみることにした。

あれだけ切られたのにもかかわらず、同じ場所に置いてある。

パチッ。

悪いことをしているのは事実で、やろうと思ってやったことでも血の気が引く。

僕はお隣さんに謝りに行った。

お隣さんは機嫌がいいのが隠しきれておらず、ちょっと嫌になった。

やっぱり、メレンゲクッキー目当てなのか。

もはやひまわりなんてどうでもよさそうだ。

お隣さんがお母さんと話し終わると、僕はこっぴどく怒られた。

さすがに二回目は無理だよ、って。

そりゃそうだ。

怒られることも分かっていたから、僕は謝るばかりだった。

お隣さんを見やると、すごく上機嫌だった。

お茶とお菓子を楽しんでいる。

お母さんはこういうところに気づかない。

お母さんに言っても無駄だし、しょうがない。

「ひまわり、どうしても切っちゃいます。どうにか別の場所に移動できませんか……?」

「えっ、えーと……」

「あ、そうしたら切らなくて済むね。ごめんなさい、うちの息子が何度も。どうしても切っちゃうみたいで、別の場所に置いたら安心だっていうんで、どうにか移動してもらえませんか。」

「あ……わかりました。」

お隣さんは明らかに嫌そうにそう言った。

僕は勝ち誇った。

お母さんは僕に味方した。

計三名の利用されたひまわりに、心の中で敬礼したのだ。

ひまわりには本当に申し訳ない。

お隣さんは帰った後、切られたひまわりの鉢を移動したが、新しいひまわりが置かれることはなかった。

最近は隣からお母さんの出すお茶と同じような香りがする。

一回目になんてことなかったように許したのも、やっぱりお茶とお菓子を食べられると思ったからなのか……。

言えばいいのに。

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お隣さんのひまわり トノホ @Tonoho3

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