親友の彼と寝た結果、私はライバルを蹴落とし、想い人に近づきました

MERO

親友の彼と寝た結果、私はライバルを蹴散らし、想い人を手に入れました。

「なぁ、つけてよ」


 抱き合いながら私に避妊具を付けることを求めてくるのは親友である沙耶の彼氏の順平。


「自分でつけなよ」


 私は彼に冷たく言い放つ。

 

「じゃあ、なくていいか」


「いや、それはやめて」


 妊娠するリスクが高いのも嫌だけど、それよりもっと嫌なことがあるから無理。


「えー……」


「やらなくてもいいけど」


「お前、この状態でそれいうか?」


 言うよ。

 順平のストレス解消に付き合ってるだけでそれも成り行きによる所が大きい。


 こんな関係に順平となったのは、とある月曜日の帰りの順平の悩みを聞いた日から。

 もともと高校1年のクラスと家の方面が同じ沙耶と順平、そして私は何もなければ一緒に帰るような仲だった。そのうち、いつの間にか沙耶と順平が付き合っていた。順平と沙耶は交際が始まっても3人で帰ることを止めなかった。おそらく順平に沙耶との話のネタがなかったことと、沙耶が週末遊ばなくなった私との時間を作ろうという考えからせめて学校にいる間は一緒にいたいという意思表示だと思ってる。


 高校2年になって理系クラスとなった私と順平だけ、毎週月曜・金曜は補修クラスに参加することなった。それを機に終わる時間がわからないことから、沙耶は先に帰り、残った私と順平が他の曜日と同じく2人で帰るような流れになった。


 行為が終わって洋服をそそくさと着る順平に私は「まだなの?」と聞いた。


「お前、それ聞くか普通? そうだったらさすがに俺もこんなことしてない。凹むわ」


 彼の悩みは親友沙耶がガードが固くて、ほぼほぼ手を出せないことだ。

 帰りに沙耶とさよならの抱擁をして、悶々とした状態で私と帰った金曜日。

 もう耐えられないと悲痛な気持ちを私に吐露とろしてきた。

 もちろん、私も沙耶のことを考えて『我慢しなよ』と彼に言った。でも彼がもし解消できなかったらこのままだと力づくで沙耶を襲ってしまいそうと言ったので、そこまで思い詰めているなら私が相手になるよと言ったのが始まりだ。


「理系クラスの女子ってほんと怖いわ。数字とかデータしか見てなさそう。感情っていうもの見てる?」


「その理系クラス女子に救ってもらっているのわかって言ってる? 感情に理性っていうストッパーがついているから本能にそこまで翻弄されない。データとして男性の本能の強さはしょうがないと思ってるし、それで親友さやを傷つけてほしくないから解消を手伝ってあげているんじゃないの。それは全部感情だよ」


「……だよな。わかってるよ……まだって……まったくだよというか、一度沙耶に聞いたんだよ。そしたら黙り込まれてそれからそんな話を一切できる感じじゃない」


「ほんとにこんなに今まで好きになったの沙耶だけなのに。面白いし、土日も一緒にいてくれるのに何で?」


 頭を抱えて順平は現在の状況を説明した上で私にも質問する。

「そっちこそ、沙耶から何か聞いてないの?」


 そもそも沙耶はそんなに感情を言葉で表さない。土日一緒にいるんなら好かれてると思うけどね。

 その順平とまだやってない話は何度か話してた。それも他の女子から茶化されてどうなのかと聞かれて嫌々答えてた感じだったけど。それを見て、私はこれは沙耶に聞いちゃいけない話題なんだって理解して一切、聞いてない。


「え――、何も変わりないよ。そういう風に思うのよくないと思う。沙耶を信じてあげなよ」


 いつも順平とはこんな感じで金曜日、私の部屋で抱き合って少し話を聞いてさよならする。


 ある日のお昼、一緒にランチをとっていた沙耶が私に言った。

「あのさ、伊織いおり、順平のことなんだけど……」


「うん、何?」


「彼、浮気してるっぽい」


 あっ……私は心の中で声を上げた。

 それ、私かな?

 私と順平のこと、バレた?

 私は急な沙耶の言葉にドキドキと心拍数が上がったが、それを見せないようにゆっくりと静かに聞いた。


「……それで?」


「こういう場合、伊織いおりだったらどうするかなと思って」

 

 相談してくるってことは私だって……気づかれてはいないみたい。

 よかった。先ほどから起きていた動悸は少し収まってきて、冷静さが少し戻ってきた。

 そりゃそうだよね。

 SNSツールも変えたし、名前も変えたし、チャットの内容は順平を励ますような優しい女の子を装った内容と順平からのエロチャットだけだ。ちゃんと偽装できてるはず。


「様子みる、かな……あと気にしないように、遊びにいく」


「そっか。遊びね、いいね。最近、〇〇遊園地、新しいアトラクションできたっていうじゃん?」


「うん、行く?」


「行きたい! 今度のお休みに行こう」


 そうやって予定は決まった。

 その週の金曜日、私は理由をつけて順平と一緒に帰宅しなかった。この話をしたくないし、しばらく会わない方がいいと思った。


その次の日が遊園地に遊びに行く日。

 朝一番に私と沙耶は待ち合わせした。


伊織いおり、何乗る?」


「並び順とか考えると、こういう流れがいいと思ってるんだけど?」


「わぁ、すごい。ありがとう。理系クラスって宿題多いんでしょう? 今日、大丈夫?」


「大丈夫、大丈夫。出木杉君みたいなクラスの人にカンペもらうから」


「さすがだなぁ、伊織いおりは。ほら単位落としたら留年になるから数Aの説明をお願いしたじゃん、紹介してもらったクラスの人、わかりやすかったよ」


「それはよかった。じゃあ、今度買う服、相談乗ってよ?」


「どんな服探してるの?」

 

 沙耶との会話は尽きない。

 久々の休みに一日遊んで、ずっと笑い合って、最後に夜景が綺麗そうなので観覧車に乗った。


 頂上付近になって、沙耶が口を開いた。

「あのさ、昨日、順平と別れた」


「……うん」


伊織いおりは様子見たほうがいいって言ってくれたのに、ごめんね」


「……あぁ、それはいいよ。どうしたの?」


「……純平のことは好きだよ。でも伊織いおりも同じくらい好きだし。じゃあ、あとは性的に見てるかどうかなのかな……でもそれってほんとに好き、なのかな? 好きの違いがわからなくなっちゃって」


「……そっか」


「……うん、それでね、純平に浮気するような子がいるんなら、その子と付き合ったほうがいいと思うの」


 そう言って、外の景色に沙耶は目を向けた。

 私も黙ってそのまま一緒に景色を見た。

 そして疲れ切った私たちは帰りのバスで隣同士になって揺られ続けた。

 大きな揺れとともに沙耶は私に寄り掛かってきた。


「寄りかかってもいい?」


「うん、疲れたでしょう?」


「疲れたね、楽しすぎて疲れた。伊織いおりと一緒にいるのが、好き」


「そっか、ありがと。家近くなったら起こすよ、寝ていいよ」

 

 私がそう言うと沙耶はすやすやと小さな寝息をたてて寝始めた。昨日、別れ話をした疲れもあるのかもしれない。


 そうか、別れたんだ。

 その言葉を聞いて、心底ほっとした。

 私は高校で同じくクラスになった時から沙耶のことが好きだった。私は順平が沙耶と付き合っていることに対する嫉妬を隠して、二人の様子をずっと伺っていた。順平に沙耶を傷つけられたくなくて私が沙耶の代わりになっていただけ。


 もうそれはしなくていいんだ。


 私はさっと携帯を取り出し、順平とのやりとりで使っていたアカウントとツールをゴミ箱マークを押して削除した。そして家に帰ってもう必要ないあの箱を捨てようと思った。

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