【KAC20243】『クロス・ポイント~古のデルタと暗黒のリゲル~』

属-金閣

第1話 四つの箱

 俺が目を覚ますと雲のない青空が視界に入る。

 仰向けだと気付き、身体を起こすと正面にはパルテノン神殿の様な場所があった。

 他には何もなく一面水面だった。

 とりあえず俺は目の前の神殿へと向かい、中に入ると何者かが王座の様な場所に座りこちらを見下ろしていた。


「やっと来ましたわね。待っていましたわよ、ヒビキ様」

「俺の名前知ってるのか」

「当然ですわ。私は女神ですから」

「あ~そういう設定ですか」

「設定とは何ですか?」

「いえ、何でもありません。で、俺はどうしてここに?」


 その後、目の前の女神から俺は不慮の事故で死んでしまったと言い渡される。

 そしてある世界に転生できる器であり、この女神の間に呼ばれたという事だった。


「あら、驚かないのですのね。死んでしまったのですよ」

「定番だな。いや、忠実といえばいいか。あ、その辺は分かって来ているんで大丈夫です」


 女神は俺の淡白な反応に、物凄い微妙な顔をする。

 だが、軽く咳払いし話を続けた。


「それではこれからヒビキ様が転生する世界なのですが――」

「あれですよね、何か人に敵対する最恐な存在がいてそれを倒すのがゴールですよね。で、ここで最初に得る力を選ぶんですよね」

「っ! ……はぁー。……さすがヒビキ様、そこまで理解されているとは。では、早速選択の儀を始めましょうか」


 女神は頬が少しピクピクとしながらも、笑顔で俺の前に四つの箱を出現させた。

 四つは赤、青、黄、緑の色でありどれも同じ形かつ大きさであった。


「これよりヒビキ様には、次の世界に持っていく力を選んでいただきます」

「さて、どんな四つなんだか」

「説明を聞かずお選びになりますか?」

「いや、ここからは知らないから説明をお願いしたい」

「そうですか。では、どれから聞きますか?」


 俺は左から順に赤、青、黄、緑の並んでいる順番で説明するようにお願いした。

 すると女神はまずは赤の箱を宙に浮かし、説明を始めた。


 赤の箱。

 その中には、最恐を倒すための切り札にもなる一本の剣が入っていた。

 その剣はどんな攻撃でも切り裂き、人に対し脅威となる相手に強力な一撃を与えられる特別な剣であった。

 更には敵を倒すごとに、自身に掛けられたデバフを一つ解除する効果付きである。

 だが、メリットばかりではなかった。


 選んだ際に生じるデメリットが、仲間は必ず瀕死寸前状態となる。そして、仲間が死亡した際には自身にデバフが五つ追加されるというものであった。


「いや、きつい! 何故仲間が瀕死近く、死亡したら五つなんだよ」

「それほどに最強と謳われる剣を初期装備するのは代償が必要なのです」

「とりあえず赤は保留で。次、お願いします」


 青の箱。

 その中には、一冊の本と指輪が入っていた。

 それはその世界にいる魔獣を従えるテイマーという役職を得られるものであった。

 ただのテイマーではなく、その世界で最上位の龍を初期から仲間にした状態からスタート出来るものだった。

 更に仲間にする魔獣は制限なく、成長もさせられる最強の役職であった。

 しかし、これにもデメリットがあった。


 それは、人語を一切話せず理解できないというものであった。

 魔獣と心を通わせられるのみで、人と対話もできず代筆もしても不可能というものだった。


「は? 目的達成のために会話は必須なのに、それが無理とかもう詰みだろ。どうやって依頼とかこなすんだよ!」

「最上位の龍を最初から仲間にするというには、それほどの代償が必要なのです」

「またそれかよ。はあ~はいはい、じゃ次」


 黄の箱。

 その中には、長い杖があり先には七つの宝石が加工され装備されていた。

 それは世界最高の魔法使いとなれる杖であった。それを一度装備することで、どんな魔法も最初から使える最強装備である。

 更には詠唱短縮まで行え、膨大な魔力、そして技の威力や速度を落とさず放てる効果付きだ。

 しかし、これでもやはりデメリットは存在した。


 それは、転生するのが高齢者というものであった。

 しかしそれ以上に歳は取らない代わりに、若返って行くというものである。


「他の二つに比べるとましなデメリットだな」

「では、こちらにしますか?」

「……本当にそれだけなのか」

「初期のデメリットはそれだけでです」

「初期の?」

「はい。若返るという事は、確かに力はその時より更に上昇します。しかし、一定を超えると再び下がります。当然若くなっていくのですから」

「なるほど」


 一見そんなデメリットではなく思えるが、いずれは魔法すら扱えないほど若返るという事だ。しかもそれがいつ来るかも分からない。

 突然魔力が減少する事だってあり得るかもしれないのだ。

 そうなったら、すごい装備を貰っていても宝の持ち腐れである。


「それでヒビキ様。こちらの黄の箱を選択されますか?」

「いや、最後のも聞かせてくれ」

「承知致しました」


 緑の箱。

 その中には、飴玉が包み紙に入って一つだけあるだけだった。


「え? それだけ?」

「はい。こちらにはこれだけです。こちらを舐めていただくだけとなります」


 女神曰く、その飴玉を舐めることで体内が活性化し徐々に強くなっていく身体に変わるとの事だった。

 鍛えれば鍛えるほど強くなり、自分が思うままに成長していけるとの事だった。

 俺はもちろんこれにもデメリットが存在するのだろうと思っていた。

 だが、女神は首を横に振ったのである。


「こちらには、あちらの世界に行って大きなデメリットは存在しません」

「今まであって急にないわけないだろうが。怪しすぎる」

「そう思われても仕方ありません。ですが、本当なのです。こちらはヒビキ様次第の道を歩んでいただくのです。他の三つに比べ死亡率が高いことぐらいです」


 他の三つの力に比べてこの箱の力は最初から強くはない。だから、それが強いてあげる緑の箱のデメリットだと明かした。

 しかし、そういう境遇に逢いやすい訳でもなく不幸な体質という訳でもない。

 ただ自分が強くなろうとしない限り、強くもなれないし貧弱なままというものであった。


「どう生きるかはヒビキ様次第という訳です」

「なるほどな。選択するならこれだな」

「では――」

「だがまだだ。そんな最高な選択があるにも関わらず、これがクソゲー・オブザ・クソゲーと言われる訳がない」


 そうここはあるVRゲームの始まりの場所である。

 ゲームだから最初の話も分かっており、力を選択するという所まで把握していた。

 だが、それ以降は何故か攻略等が何処にも存在していないのである。

 ただクソゲー・オブザ・クソゲーと言われているだけなのだ。


「なるほど、ヒビキ様は普通の器ではない方でしたか。では、特別にお教えいたしましょう。緑の箱を選んだ者の末路は、この世界の最恐です」

「それってラスボスって意味か」

「そうです」


 このゲームは人に敵対する最恐な存在を倒すのがゴールだ。その最恐になるとは変わったストーリーと思ったがそういう事だけじゃなかった。

 世界はプレイヤーが起動させたゲームごとに生成される。主役となる者も、最恐の存在もだ。

 しかし、同時ではない。どちらか一方のみなのだ。


 そう、この世界は一人では絶対に完結しないゲーム設定なのである。

 最低でも二人いないと、ストーリーが完全に進まず詰むのだ。更に最悪な枷がかかる仕様になっていた。


「あなた様はこの世界に転生するのです。即ち、別の世界にはいけません。この世界を救うまでは」

「……あ~なるほど。それで弟はもう一台ハードを買ったのか」


 つまり、このゲームをクリアしないと他のソフトが一切遊べないという超絶クソ仕様だという事だ。

 本来ならそんな仕様出来るわけがない。しかし、このソフトはVRハードの制作会社が作ったゲームである。

 ソフトにそういう仕掛けをすれば、そういうクソ仕様も出来るという訳だ。だが、だからといってやっていい訳ではない。

 しかし、このソフトは事前にいくつもの注意が大きく分かりやすくされていた。


 『このゲームは本当に世界を救う意思がない者は絶対にやらないでください!』

 『後戻りが出来ない、本当の異世界転生ゲームになります!』

 『生半可な気持ちでこのゲームをプレイしないでください!』

 『この世界は一人では絶対・絶対・絶対に救えません!』

 『批判は受け付けません!』


 等々、パッケージやインストール中にも大きく表示され、意思確認をされているのだ。それを承知でこのゲームをプレイしているのである。

 その結果、世界で詰み他のゲームができず新しいハードを買う事態となる。

 批判したところで、散々注意されてそれを了承して行ったので大っぴらに批判もされてないという感じであろう。

 しばらくして、このゲームは販売中止となり伝説のクソゲーになったのだ。


「ゲームをやるにも個人ハードのアカウントを使わないといけない。仮に二人でやってもクリアできる保証はない。複数人対応なら、それぞれで箱を選ばないとクリアできないっていう線もありえそうで怖い」

「それでヒビキ様。どの箱を選択いたしますか?」


 俺はその場で大きくため息をつき、問いかけてくる女神に背を向けた。

 そのまま来た道を歩き始める。


「ヒ、ヒビキ様! どちらへ!?」

「戻るんだよ、あっちの世界に。こんなクソゲー気分転換になるかよ」

「お待ちくだ――」



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 俺はVR機器を外し、起き上がりベットに座る。


「ふー。とんだクソゲーを渡してきたな、ゆうのやつ。ハードを母さんに電源を引っこ抜かれて壊れたからって、もう一台のハードを使うためにこのゲームをクリアしようと俺を巻き込みやがったな」


 携帯を机の上から取り、すぐさま弟の勇に電話を掛けた。


『あ、響兄? どうだった、面白いゲームでしょ』

「お前な、俺がゲームに疎いからって最悪なクソゲー渡してきたな!」

『っ!』

「もうハード買えないからって、死んだハード解放させるために渡したな」

『頼むよ響兄! もうそれ読み込んだハードしかないんだ。俺を助けると思ってお願いだよ!』

「あのな~そもそもはお前が宿題をやってなかったのがいけなんだろうが」

『いやだって、それは』


 その後、兄弟の電話での話し合いは続くのだった。

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