その13.ストーリー構成には作戦が必要

 前回は起承転結構成で長い物語を創作するにはどうするかについてまとめました。


 今回は根本的な部分『作ったあらすじを面白くしていくにはどうすればいいか』について、全百科の内容をもとに語ります。


 全百科ではまず序破急の説明が入り『ストーリーというものはつまるところ、テーマに関わる事件が発生しそれを解決するものである』と説明。当然例外はありますが、大体の物語はそういう物だと自分も思います。


 とすればぶっちゃけまずテーマに関連した事件を考え、それが解決する様や過程を考えればストーリーはできあがる、というわけで。


 ただ全百科には同時に、『事件の発生と解決をそのまま素直に考えたのでは面白い話にならない』とも書かれています。例えば『努力がテーマだとして、野球で主人公が試合を申し込まれ努力して当たり前に勝つだけでは面白い漫画にならない』と。


 それを解決するためには『作戦が必要』となるわけです。

 そしてそれにあたって用いるのが、前に述べた『置換・誇張・逆転・連想』。



 そのあたり全百科では、引き続き野球漫画を例に出して『逆転』を使って説明しています。

 例えば、努力して強くなるのは当たり前なので『努力しても強くならないチーム』で考えてみると。たしかに、そんなチームが当たり前に勝つことなどできるはずもなく。展開も『強くなって当たり前に勝利』とは違ったものになるでしょう。


 しかし全百科ではさらに『それだけでは不十分。『弱いけどまぐれで勝った』は『強くて勝った』と同じくらいつまらない』と断言。さらに作戦を練って『強くなったことを最初は見せずに、試合で徐々に強くなったことが明らかになっていく』描写が提案されています。


 例えば『最初は緊張していて力を出せない』や『一見、野球とは無関係に見えた努力が実は意味があってそれが試合中に現れる』や『野球の弱い原因がチームワークや選手の意識など能力や技能とは別のところにあって、それが試合中に徐々に解決していく』など。

『努力の結果が練習シーンでは現れず、試合中に徐々に現れる』事によって、読者をハラハラさせ面白く見せる事が出来るわけです。


 また、構成を考える際には話の盛り上がりを後半に持っていくのを意識する事を全百科では説明。先ほどの例ですと『試合中に努力の成果が『徐々に』現れる』という、ドキドキハラハラする部分が盛り上がりになるわけです。


 ちなみに野球漫画ではこの『努力してただ勝つだけでは面白い漫画にならない』問題を上手く解決している作品が多いです。興味があったらそういうベクトルから見てみるといいでしょう。



 さらに全百科では作品の起承転結の『起』や『承』の部分の工夫も説明されています。

 例えば主人公が所属する『弱いチーム』というのをただ文章やセリフで弱いと表現しても面白くないし、また読者に伝わりにくいわけで。そこで『例えば極端な話、幼稚園の野球チームと戦わせて負ければ、弱いことが一目瞭然でわかるし描写としても面白い』としています。展開の方式としては『誇張』にあたるでしょうか。


 そして、こういう対比による表現手法を全百科では『葛藤』や『対立』と説明。この手法はいろいろな物語で見受けられ、例えば金太郎が熊と相撲をして勝つなど昔話でも使われています。


 では、『努力をした』を表現する場合はどうでしょうか?

 先ほどの『弱いチーム』と同じように考えると、例えば『プロ野球選手よりも努力した』と表現することになるでしょう。ただ、全百科では別の方法も提案されています。それは『努力した』を『逆転』させて『努力しない』あるいは『努力できない』のを表現するという方法。

 

 例えば『怪我などのアクシデントで練習が出来ない状況から立ち直り、そこから努力を始める』とやれば努力を始める前後で落差をつけることができます。そしてドラマチックな展開で多くの人の共感を得られやすいでしょう。またこの流れは『弱い理由が技量ではなく他にある』という展開と相性も良さげかと。



 このように、考えたあらすじがどうにも平坦だと感じた時に『置換・誇張・逆転・連想』で当てはめてそれをぶち壊していく。これが『ストーリー構成の作戦』の基本となります。


 このあたりの工夫は色々な作品で見られ。例えばドラゴンボールでは、一般ではつまらないとされる修業シーンに関して『序盤で亀の甲羅を背負って畑仕事や牛乳配達や投げた小石を探す』や『地球の十倍・百倍の重力の場所で修業』などで工夫をしていたりするわけで。


 ちなみに拙作『劣等スキル持ちで~』ですと、例えば『姫様が罵倒されてそれに怒った主人公が相手に反抗』を『置換』を用いてアレンジ。『姫様が罵倒された事で仲間が暴走。それを諫める形で主人公が割って入るが、主人公も内心怒っていた』というふうにひねる、とか。


 また『魔王が王都に進軍して、姫を巡って決戦』を『誇張』『逆転』でアレンジ。『魔王が王都に単身乗り込んできて防衛軍を粉砕。その上で和平を持ちかけ条件に姫の身柄を要求。王国の支援が得られないまま、主人公と仲間が少数でそれに反抗する』みたいな流れにしたりしています。



 次回はこの『ストーリー構成の作戦』を踏まえた上で、3幕構成について私論的なモノを展開させていただきます。


 一般的に3幕構成が解説される場合、例えば『始めに子猫を救え』や『マジック3』など今回説明した作戦にあたるものが解説に盛り込まれている物が殆どかと。ですが、多くの場合それと基本的な構成方法が物語の流れにそって説明されるために解説が混然としたものになり、それが理解や利用を阻んでいる側面があると思うのです。


 そこで3幕構成の概念の要素を分解。一つ一つを『タスク』と定義しその優先順位を定め、高いモノから順にこなしていく(自分にとって必要な項目を取捨し自分の作法に取り入れていく)というのが創作に役立てる近道だと思うわけで……。という感じの話になります。

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