先輩と箱に閉じ込められました

橘スミレ

美人さんと箱に閉じ込められてしまいました

「うわ、ひゃ、あれ?」


 体育館への扉を開くと落っこちた。

 上を見るとちょうど閉まるところだった。

 無慈悲にも天井は段ボールみたいにパタパタと閉まる。

 マズイ。閉じ込められた。


 天井までは結構な距離がある。

 出れそうにない。

 というかこの高さから落ちたのにあまり痛くない。


「ねえ。そろそろ降りてもらえるかしら」


 自分の下に人がいた。

 体操服の色から一つ年上の先輩だとわかる。


「あ、すみません!」


 やばい先輩の上に乗ってしまった。

 しかもとっても美人だ。

 緊張する。


「大丈夫だった?」

「あ、はい。先輩こそ大丈夫ですか?」

「あ、うちは大丈夫だよ。さて、これここからどうやって出ようか」


 先輩によると壁はとっかかりがなくて登れない。

 それに手の届く範囲に出口もないらしい。


「助けが来るまで待つしかないってことですか」

「そうだね。ゆっくり二人で待とうか」


 そう壁に座って向かい合って話していた。

 だが急に全体が揺れ始めた。


「え、あれ、どうしよう」

「こっちに来て!」


 先輩が手を引いて中央に寄せてくれる。

 二人で並んで立つ。

 だが壁や天井が近づいてくる。

 硬くはないので多少は壁にぶつかっても大丈夫だ。

 だがザラザラしていてかすれると痛い。


「ちょっと流石に狭すぎない?」


 しゃがめば幅が、立てば高さがちょっときつい。

 もうかなり先輩との距離が近い。

 すごくいい匂いがする。


「もうちょっとこっちにおいで」


 先輩にぎゅっと抱きしめられた。

 あたたかい。心臓の音が聞こえる。


「ありゃ。天井が下がってきちゃった」


 これはマズイ。座ろうにも一人くらいしか座れそうにない。


「しょうがない。よいしょっと」

「あ、え、せせせ先輩!」


 先輩が座り、その上にのせられた。

 顔が近い。とっても近い。

 先輩が息する音までもが聞こえる。


「あの先輩。私重いですから代わりますよ」

「そんなことないよ!」


 そう言って先輩が私の脇に手をいて天井に当たらない程度に軽々と持ち上げる。

 すごい筋力だ。


「ほらね。助けが来るまでゆっくり待と?」


 頭を撫でられる。

 なんとなく落ち着かない。


「それにしても一緒に閉じ込められたのが君みたいな可愛い子でよかった」

「何言ってるんですか、先輩。私なんて全然ですよ。私より可愛い子なんていっぱいいますよ。例えば、その」

「例えば?」

「せ、先輩とか!」


 言っちゃった。

 初対面の先輩に言っちゃった。

 でも、だって本当に可愛いのだから仕方がない、はず。

 先輩は今まで見た人とは比べられないくらい美人だからだ。


「えー! 嬉しいことを言ってくれるね!」


 ぎゅーと抱きしめられた。

 ちょっと苦しい。けど悪くない。


「先輩といると、このメチャクチャな状況も怖くないんです」

「可愛い後輩ちゃんが安心させられたならここに落ちちゃって良かったのかもしれない」


 なんてね、と先輩は笑う。

 まるで幼い子供をあやすように背中をさすられる。

 ちょっとむずがゆいけれど、すごく落ち着く。

 落ち着くから眠くなる。

 


「あれ、寝不足?」

「課題がなかなか終わらなくって……」

「そっかあ。なら寝ちゃいなよ。助けが来るまで時間かかるだろうし」


 先輩は私の頭を一定のリズムでたたく。

 そうされているうちに睡魔がやってきて眠りについた。




 目が覚めると保健室にいた。

 どうやら私たちは大きな箱に入った状態で見つかったらしい。


「あ、先輩は?」

「もう授業に戻ったよ。君も大丈夫だったら戻りなさい」


 ベッドから出ると知らない人のカーディガンを着ていることに気がついた。

 急いでぬいで持ち主の名前を探すが見つからない。

 どうしよう、と困りながら特に意識せずにポケットに手を入れた。

 中には紙切れが入っていた。


 そこには放課後になったら食堂の横で待っていることと放課後まではそのカーディガンを着ていてほしいことが書かれていた。

 相手の意図はわからないが、これでカーディガンを返せる。

 そのことは安心できた。


「あれ、先輩?」


 放課後になり食堂の横へ行くと一緒に箱に詰められた先輩がいた。


「やっほー」

「大丈夫でしたか?」

「ぜんぜん大丈夫だったよ。君も元気そうで何より」


 また頭を撫でられた。やっぱり落ち着かない。

 ここはさっきと違って人通りがあるから余計に落ち着かない。


「あの、カーディガンありがとうございました」

「お、持ってきてくれたんだね。しかも一日来てくれたんだ。君から私の匂いがする」


 先輩は嬉しそうに私へ顔を近づける。

 人目があると恥ずかしい。

 でも、ドキドキする。


「先輩、そんなことされたら勘違いしちゃいますよ」


 先輩が私のことを好いてくれてるんじゃないかと期待してしまう。

 そんなありもしないことを考えてしまう。


「本当に勘違い、なのかな?」


 先輩は私の耳元でそうささやいた。


「え、それって……」

「じゃあまた今度ね。たいてい2-4の教室にいるよ」


 先輩は早足でその場を去っていった。

 先輩の行動があせっているように見える。


 これは期待してもいいのだろうか。

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先輩と箱に閉じ込められました 橘スミレ @tatibanasumile

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