風の流れ
板谷空炉
風の流れ
土曜の晴れた日、高台の街を散歩した。
この春から引っ越してきたばかりであり、道を覚えるついでに歩いていたのだ。
しかしまだ風は冷たく、春の気配は何処にも感じられなかった。
疲れたため、少し休憩がてら公園に行った。正午頃ということで公園には誰もおらず、気を遣うことなく入り口付近のベンチに腰を下ろした。
公園越しに、新しい街を見た。
景色はとても美しく、行き方すら分からない同じ街に魅了された。青空が映えており、そこにいるであろう行き交う人々を、優しく包みこんでいた。
近くに行くと、吸い込まれそう。
吸い込まれて包み込まれて、戻ることが出来なさそう。
それは美しく畏ろしいものであり、見える景色の中に、これから起こる希望と絶望があるように思えた。
風の流れは、透明で見えない。
それはまるで、この街のようだと感じた。
風の流れ 板谷空炉 @Scallops_Itaya
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