第13話 神様との邂逅


「実に気持ちが良いな。ここは。私たちもいい場所を見つけたと思ったが、ここには敵わない。」

 昼食時に集まった時にそう言うのは、現移住先で話が進んでいる場所を見つけたメンバーの一人。

「そう。まさに極楽、または桃源郷? ここに住んだらダメになっちゃうかもしれない。わたし。」

 ラムがスープを配りながら言った。ラムの言うことも一理ある。大変住みやすいのだ。綺麗な川が近くにあるし、この気候だ。動物も集まってくる。畑を作ったら色々な物が作れるだろう。生きていくにあたっては心配な要素が少ない。

「しかし、世の中から隔絶されてるよな。他種族との交流は無くなってしまうんじゃないかな。」

 他の者たちからも意見が出だした。

「そこは、定期的に誰かを街に派遣して情報を仕入ればいいんじゃないか? ここにいると、少なくとも他種族の争いに巻き込まれずに済むのが最大の利点と思う。」

「ほかの種族に感づかれたら? 案内しろってならない?」

「そこは秘密を守る一手でしょ。もし感づかれても彼らだけでここに到達するのは無理だね。」

「脅されたらどうするよ。」

「そこは、森に誘い込んだらどうにでもなるんじゃないかな。スキをついて逃げれば絶対追いかけられないって。」

「まぁ。そんな先の事を心配しても仕方ないさ。要は私たちがここに住みたいかどうかだろ?」


        ♢ ♢ ♢


 そんなある日の夕方近く。最初に異変に気が付いたのは大樹の壁を眺めていたユウだった。

「リード。あれ。」

 俺はユウの指さす方向を振り返った。そこには微かに光が漏れているように見えた。が、徐々に光が増していき、何かキラキラと輝きだした。他の皆も気づき、作業を止めてそちらを眺めている。危険な雰囲気は無い。

(何事だろう。)

 俺はユウの肩に腕を周した。ユウは俺の腕を抱き抱えた。

 幹の一部が開いたように見えた。増々光量が増している。そして中から人影が現れた。俺たちは皆、声も発せず目を奪われたまま固まっていた。

 中から現れたのは光が眩しくて表情は分からなかったが、ユウと同じような黒髪の女性の様だった。辺りを見回し、暫くじっと様子を見ていた。と思う。

「あら。グラムの眷属の皆さんですね。ごきげんよう。」

 光の女性が声を放った。グラム!グラムと言ったのか。

 グラムとは俺たち一族の創造主と言われる神の名だ。その名は秘匿され、殆ど知られることは無い。

 その名を口にするのは、同格の神か。俺は必死の思いでユウから離れて一歩を踏み出し、片足を跪かせて、問うた。

「あなた様は神か? 我々の創造主をご存じなのか?」

 光の女性は暫く俺を眺め、そして答えた。

「そう。私たちはグラムをよく知っております。」

「ならば、あなた様も創造主でいらっしゃる?」

 俺は、緊張して勢いだけでしゃべっている。大丈夫だろうか。

「そう・・・。そう呼ばれることもあります。」

 やはりか! 『神との邂逅』は、この事だ! 俺は確信した。

「お願いがあります。我らを、この地に住まわせていただきたい。グラム様の眷属として、永い永い間、この地を探しておりました。どうか我らの願い、お聞き届けのほどを!」

 その声を聴いて、他の者たちが我に返り、俺と同じように跪づいて祈りを捧げるような形を取った。

 光の中の神様は、暫く黙って俺たちを眺めていた。永遠の時が過ぎるかと思った頃に、神様は口を開いた。

「良いでしょう。その代わり、あなたたちにはこの樹と、この森を守っていただきたく思います。私は正確にはあなたたちがいうところの創造主ではありません。ここでの創造神はジンと言います。あなたたちがこの樹と森を守り続ける限り、創造神であるジンがあなたたちを守るでしょう。」

「誓って! この世界樹とこの神授の森を我らが守ります。どうぞ、女神様。我らをお導き下さいますよう!」

「世界樹・・・。また会いましょう。グラムの眷属であるエルフたちよ。」

 フッと、女神さまが笑った様な気がした。そうして、光が瞬くように煌めいたと思ったら、フッと消え、女神様は去って行った。


        ♢ ♢ ♢


「だぁ~ 緊張したぁ。」

 俺は腰が抜けていた。

「リード! リードぉ!」

 ユウが抱き着いて涙声になっている。緊張したのだろう。皆も緊張が解けて、そこここにへたり込んでいる。

「よ、良くやったなリード! 今日ほどお前を頼もしく思ったことは無いよ! 僕は声を出すこともできなかった。」

 ベルマンが声をかけてくる。ラムはベルマンに抱き着いている。俺と同じように腰が抜けているようだ。

「そうですね。リードは英雄です。この地に住まう許可を女神さまからもぎ取ったのですから。それにしても! 神様が顕現されるとは! 伝承通りではないですか!」

 ガスパーが興奮している。珍しい。

「その通りだな。神様が降臨された。最早、選択の余地もなくここが俺たちの住まう場所だ!」

 俺は宣言した。


        ♢ ♢ ♢


 いや~。あの時は本当に焦ったよ! ホント!

 あたしはかなり昔の出来事をジンのおかげで久しぶりに思い出していた。

 トワからの軌道エレベーター修復が終わって百年程が経った頃、エレベーターの様子を視る為に地上に降りた。

 点検保守はアキに任せていて全く問題ないのだけれど、偽装とか感覚的なものは任せっきりにしておくとやりすぎ感があるというか。

 普段は地上の様子をしっかり確認して降りるんだけれど、その時はたまたまね。それを怠った。不慮の事故はこうしたタイミングで起こるのは世の常。

 光学迷彩を纏うのはエレベーターを利用する時のデフォルトな仕様なので、その時にはそれで助けられた感がある。距離があると見えなくなるんだけれど、近くだと誤魔化し切れない。けど、やたらキラキラしてる。

 出口を開けて外に出たとたん吃驚して固まったわ。何もないはずの場所に人がいる! 誰?この人達! 落ち着けあたし!

 焦ったあたしは、深呼吸して現状把握に努めた。

 あらあら? アキったら、またお花畑広げて。ちょっとこれは無視できない広さよね。

 半ばあたしは現実逃避しながら、そこにいた人たちを観察した。どうやら敵意はなさそうだ。だが、何百年かぶりに接触した人類。かなりパニックになってたけど少し落ち着いてきた。

 あら。この人たちは恐らくグラムの係累だわ。耳に特徴が。そこを起点に話しかけてみることにした。けれど、言葉通じるかしら? 

 どうやら話は通じるみたい。グラムの眷属なのか訊いてみたところ、劇的な反応が返ってきた。一歩前に出て来た代表者らしき男性とのやり取りで、あたしが神様か何かと思ったらしい。いやいや。ここは冷静になろう。

 あたしが神様的な何かとして、これを前提としてここを切り抜けられるならば。

 あたしは頭をフル回転させて考えていたところ、代表の人があるお願いをしてきた。つまり、ここに住まわせてくれっていうことらしい。

 どうするか。ここのことは絶対に知られたくない。けれど、この人たちには既に知られてしまった。口封じという手もあるんだろうけども、あたしは絶対に嫌だ。ならば抱き込むしかない。大分考え込んでしまったようだ。視線を上げると、不安そうな目と合った。

 結果的にここに住んでいい代わりに、この軌道エレベーターと周囲の森を他者から守ってもらうという取引条件を受け入れてもらった。これで一蓮托生。利害一致。

 最後まで彼らはあたしを神様だと思ってたらしい。神様はそうそう人前には現れないものよ? あたしはジンに神様の立場を譲ったわ。悔しければさっさと復活してね? って思ったものだわ。

 また、代表者の彼は軌道エレベーターの事を世界樹と言った。確かに地表近くは樹木に偽装してるけれども。天まで至る樹かぁ。言い得て妙ね。それに彼らは耳が伝説の妖精族エルフみたいじゃない? 守護者としては完璧ね!

 最初はどうしようかと思ったけど、結果を見れば、収まるところに収まったようだ。それ以来、彼らとは良好な関係を続けている。

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