第9話 この世界って?

「ナユの話が訊きたい。」

 夜、二人きりでいる時に僕は言った。

「どうしたの? 突然。あたしの話って、いつも話しているお話以外のお話?」

 ナユが妙な言い回しで訊いてくる。僕とナユでは生きて来た時間が千五百年のギャップがある。多少色々と変わったこともあるだろう。だが、基本ナユはナユだ。だが、その変化したところを見つけるのも最近の楽しみではある。

「この現代世界の神話とか宗教感とかどうなってんの? 今日の偵察で、国の重鎮たちが神だの未来視だのって、真剣に話し合ってたんだよね。創造神って何?」

「・・・・・・・・・」

 ナユがまずいものを見つけられたって顔をしている。どういうことだろう。

「あのね。えとね・・・。創造神は・・ たぶんあたしたちのことなんだよ・・」

「どういうこと?」

「そう・・ あたしがずっと、この世界を見張ってたのは知ってると思うけど。まぁ、千年も経つと色々とやらかし・・ 失敗・・ いやいや、不幸な出来事があるもので。」

 ナユの目が泳いでる。何をやらかしたのだろう。ナユは覚悟を決めたかのようにこちらを向いた。

「例えば、一番分かりやすいのはエルフ達ね。あたしたちの軌道エレベーターのある深い森に棲んでいるのだけれど、彼らはそれを世界樹と呼んでるのね。」

 おふ! またファンタジーな単語が出て来た。確かに軌道エレベーターは地表近くは大木に偽装してあるし、光学迷彩も施してあるので近くに行かないと姿を現さない。

「それで、彼らはその森を守ってくれているのだけれど、あたしたちも彼らを守ってるのよ。ギブアンドテイクってことね。なんでそうなったかというと、あたしは時々地上に降りるわけじゃない? 麓の森がただの深い森だった頃、ある時あたし見つかっちゃったのよ。たまたま森に入り込んでた彼らに。寄りにもよって、光学迷彩のキラキラエフェクトを散らしながら降りたものだから。彼らはあたしをこの世のものではないものと認識したみたいで。そのうち神様という扱いになったの。」

 なるほど、現代の文明レベルならばそういうこともあるか。妙に納得しながら続きを促した。何を言おうとしてるのかナユの目がガラス玉の様だ。

「でね、そこはエレベーター守るためにその話に乗るべきだと思ったの! つまり、あたしは言った。『あなたたちがこの世界樹を守り続ける限り、創造神であるジンがあなたたちを守るであろう!』」

「はっ?」

「つまり、彼らにとって、創造神はジンってことね。」

 ナユがテヘペロって顔をしながら言い放った。

 いや。ちょっとそれは予想外過ぎて混乱する。

「ちょっ! なんで僕なのさ! ナユでもブランでもいいんじゃ?」

「神様は人前に出ないの! たぶん。 ジンはずっと寝てたんだし。あたしやブランたちは神の使いってことにしてるわ。」

「え~。創造神って何なの? 僕って神様なの? それで、あんな厳重な警戒でトワから送り出されたのか。」

 実際、トワからエレベーターで下まで行かず、途中で空に射出されたんだよね。その方が安全で目的地に近いからだからって。

「大丈夫よ? バレなきゃ大丈夫! 誰もジンを神様だとは思ってないでしょ?ね?」

「いやいや。そういう問題じゃ・・」

 けど、話の一端は見えて来た。ちょっと落ち着こう。ならば。

「実は、今日の調査で宰相がリーンのことを、創造神に魅入られし乙女、とか言ってたんだけど。どういうことかわかる?」

 ナユは人差し指を顎に当てながらちょっと考えた。

「たぶんだけど、ジンはリーンのことをグラムさんの眷属って言ったじゃない? 遺伝子操作の一族って何かしら体に特徴があるよね? グラムさんの趣味だと思うけど。それと生き残るための特殊能力。それが合わさって、この現代世界ではグラムさんの眷属たちは不思議な能力を持っているという認識なの。一番メジャーな一族は言うまでもなくエルフね。一番人口が多いもの。特徴はちょっととがった耳。能力は環境対応力ね。創造神の眷属って呼ばれているわ。他の特徴を持つ人も、少数だけどあたしが会った中にいたわ。リーンの場合はあの濃紺の髪に混じった黒髪。あなたに言われて気が付いたのだけれど、あれは触覚かアンテナ的なものね。能力は危険回避能力。それで、創造神に魅入られし乙女なのかしら? あら? ジンに魅入られちゃったの? 彼女。」

「ええ~! ナユ、変なこと言うなよ。なに?その神話設定。けど、それならその創造神はグラムじゃん。」

「あ、そうね。エルフの間ではグラムさんは神さまとして敬われてるわ。けど、神様が誰かなんて普通は区別付けないわよ。そう説明すると納得できない? 彼らにとって創造神は実在するわ。ほかのヒト族にも伝わっちゃったのね。」

「はぁ~、なるほどね。だけどさっきの話。グラムの一族は、凄く特別な能力って訳ではないよ。普通の人間が届き得る能力だね。リーンの会った人が自分にとって害になるか感じる能力だってそうだ。例えばナユは家に出るあの黒い虫を見てどう感じる?」

 とたん、ナユが蒼褪めた。カサカサと物凄いスピードで這い回る黒いヤツを想像したのだろう。ブルっと肩を震わせた。

「ね? あれはナユに直接何かしたわけでもないのに、問答無用で拒絶するだろう? 不思議だよね。昔から話はあったけど、グラムはそういうのを遺伝子に刻み込まれた情報だと初めて解明したんだ。それを応用したのがリーンの能力だと思うよ?」

 そこまで話をして、僕は少し考えた。トートイスの会頭はリーンは未来を読める、と言った。なるほど、危険回避の能力はある意味未来を読むことに違いない。

「だいぶ分かってきたよ、ナユ。それで? 他にやらかしたことって?」

「え? えっと。その話は・・ おいおいね・・ね?」

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