第6話 新生活とメイド参戦
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二人が帰った後に、あたしたちはお昼をしていた。今日はパンケーキと野菜、ハーブティーと軽めだ。
「どうやら暫くリーンを預かることになりそうだよ。」
ジンの言葉にあたしは驚いた。
「どういうこと?」
ジンはアイゼンさんとの話を掻い摘んで話をしてくれた。
「寄りにもよって王子に目を付けられるとは。けど、これは政治とは関係ないだろうな。」
「リーンはかわいいからね。まだ成人してないからあからさまな行動に出てないけど、2年後くらいには強引に召喚されるかも。今のうちに出ていくのはアリかな。」
あたしは、アイゼンさんが拠点を移す案に一票を投じた。
「さて、この国をどうするかねぇ。」
ジンが珍しく頭を悩ませている。アイゼンさんは拠点を動かして難を逃れることができるが、あたしたちは拠点が近いから、この国の乱れは許容できない。アイゼンさんの話からあまり時間は無いとジンは判断したようだ。
「ナユならどうする?」
「あたしは、どうしようもなくなるまで様子見かな。勿論助けられる人はできるだけ助けたいけど。」
あたしの線引きはトワの保全だ。これに影響が出ることが無ければ干渉しない。だが、ジンの考えは違うようだ。
「そうだな。今まではそれで良かったかもしれない。だが、ヒト族は確実に力をつけてきている。トワもいつまでも安全とは言い切れない。僕達も地上に拠点を作るときが来たかもしれないな。」
「それってどういう・・」
「この国の在り方次第だけど、場合によっては潰す。」
普段穏やかなジンとは思えない、過激な言葉が飛び出してびっくりした。
「あ。滅ぼすという意味じゃないよ。頭を挿げ替えるってことさ。」
「あたしはこの暮らしが慣れちゃってたからね。いつまでもこの状態が続くと思ってたんだ。うん。いつまでも変わらない未来はないものね。あたしたちの未来を考えてみるよ。」
「ああ、そうだな。僕たちの子供も生まれてくることだしな。」
不意打ち! なぜかあたしはこの話に耐性が無い。顔が熱くなってくる。顔から火が出るとはこのことだわ。
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「こんにちは。今日からお世話になります。」
「いらっしゃい。どうぞ。2階にお部屋を用意してるから荷物はそちらに揚げてね。」
リーンがにこにこしながらやってきた。入口の前でジンと二人で出迎えているとアイゼンさんも馬車から降りて来た。あたしはリーンを2階に導くと、元気に上がっていった。
「暫く娘をお願いします。何かありましたら護衛達を1ブロック先のあの建物に詰めさせておりますので使ってください。このことはリーンには伝えてませんので。よろしくお願いします。」
護衛は要らないことは伝えておいたが、こちらに迷惑をかけるかもしれないという配慮だろう。近くに待機させることで妥協したようだ。
そしてリーンは日頃から護衛のいる生活は窮屈だと感じていたのだろう。アイゼンさんには伝わっていたようだ。
「お任せください。良い旅になりますよう。」
ジンが自信を込めて応えるとアイゼンさんは安心したように微笑んだ。
「今朝、東の空に瑞雲が流れたそうですよ。この旅も、この国も良い方向に収まってくれたら良いですね。」
アイゼンさんは祈るような表情を向け、しみじみと言った。
瑞雲は昔から吉兆の標とされている。あたしとしては複雑な心境だ。今回の瑞雲はたぶんあたしたちが原因だから。
ジンはまだ知らないだろうな。黙ってよう。ジンが降りて来た時にも瑞雲は流れたと後から聞いた。前に住んでいた(正確にはスーが住んでいた)パームでは大騒ぎだったらしい。
「それでは行って参ります。このお礼は必ず。」
「行ってらっしゃい、お父様! 気を付けて。」
荷物を置いてきたリーンがアイゼンさんに抱き着いて言った。この世界はまだまだ未開の地が多く、いや、長い間放置されて未開同然の地になってしまった処が殆どである。無事に帰ってこれるとは限らない。アイゼンさんはリーンの頭を撫でながら月並みなことを言った。
「ジンさん達の言うことをよく訊くんだよ。」
「あ。これは旅の無事を願うお守りです。良ければ持って行って下さい。リーン。お父様の首にかけて差し上げて?」
雑貨店でよく見かけるようなメダルをリーンに渡した。
はい! と言いながら、リーンはメダルのついたチェーンをアイゼンさんの首に掛けた。アイゼンさんが大いにはにかみながらリーンの頭を撫でた。
「ありがとう。必ず無事に帰ってくる。ジンさん、ナユさん、本当にありがとうございます。リーンを宜しくお願いします。」
そうしてアイゼンさんは旅立った。
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「こんにちわ~ おひさしぶりですぅ ご主人様!」
アイゼンが旅立って三日後、一人のメイドが店に訪ねて来た。
「早かったな。ノエル。久しぶり。」
僕がノエルを迎えると、店の奥からナユとリーンが顔を出した。
「まぁ! 久しぶりね! 元気だった?」
ナユとノエルが抱き合って再会を喜んでいる。
「リーン。彼女はノエル。僕たちの友人だ。ノエル。この子がリーン。暫く家で預かっている。」
「リーンです。よろしくお願いします・・・。それにしても凄くきれいなひと・・・!」
リーンが手を合わせて、ぼぅっとノエルに見蕩れている。ノエルの鮮やかな金の髪は凄く目立つ。
「初めましてリーンちゃん。ご主人様達のお世話をさせていただいてますノエルといいますぅ。あ、させていただいてましたかしら?」
ノエルは独特な口調で自己紹介した。僕はここでの味方を増やすため、事実上戦力増強として、ノエルをトワから呼び寄せた。 人にしか見えないが昔風に言うところのアンドロイドだ。僕たちはモニカータと呼んでいる。
ナユが、そして最近では僕も加わって、長い間モニカータへの感情表現の組込みを試みていたが、これが困難を極め、まだうまくいってない。その影響でこんな口調になったんじゃないかと思っている。逆に個性が出て、益々人っぽく見えるようになっているが。
「そのメイド服の格好でここまで来たのかい? 旅には不向きだろう。それに、目立ちすぎじゃ?」
道行く人が店の前で何事かと視線を向けている。
「いえいえ~ これが私の仕事着ですもの。それにこれしか持ってませんしぃ。私がこの格好以外の服、着てるとこ見たことあります?」
ノエルが少し首を傾げて言った。いや。盲点だった。ノエルが全く気にしてないというのは分かるが、僕が気にしてないというのはまずい。ナユもノエルがほかの服を持ってないことに今更のように気付いた様だ。ちょっと顔を赤くしている。
トワ生まれのモニカータだが、自立できれば新世界の一員として加えたいと僕たちは思っている。それには人としての常識を学習させることが必須だが、それ以前に服装に気が回らなかったのはこちらの落ち度だ。
「あ。あのね? ごめんね?気が付かなくて。たぶんメイド服以外のノエルが想像できてなかったと思うの・・・ 」
ナユが僕の気持ちを読み取ったようなことを言った。ナユと顔を合わせて、二人落ち込むような表情になった。
「あらあら。だいじょうぶですよぅ。私もこの服以外想像もできませんし。」
その言葉を聞いて、二人して益々落ち込んだ。リーンは不思議そうにみんなを見まわしていた。
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