第18話 ダブルヘッドタウロス ②

 モンスターを強化するスキル『強化』を魔物使いが習得しているならば、重宝されるのは当然だろう。


 ザクレが第3級冒険者になるのも当然だろう。 だが、彼もスキルをもう1つ持っていた。


 『凶化』


 このスキルは知ってるぞ。

 確か、10年と少し前に本で読んだ事がある。 俺が魔王を倒す旅の途中に訪れた世界図書館で見た!


 特別なスキルである『レアスキル』をまとめられた本に記載されていた……はず。


 思い出せ、思い出せよ! 俺の灰色の頭脳よ!


 確か、あれは―――


 スキル効果


 『凶化』は、モンスターの潜在能力を限界まで引き出して恐るべき戦闘マシンへと変貌させる禁断のスキルである。

 このスキルが発動すると、モンスターの身体は闇のオーラに包まれ、その力は尋常ならざるものとなる。


『破壊の爪牙』――― モンスターの攻撃力が爆発的に増加し、あらゆる敵を粉砕する恐るべき破壊力を得る。凶化した爪や牙は、鋼鉄さえも容易く引き裂く。


『漆黒の防壁』――― その体表は硬化し、闇の鎧に覆われたかのように防御力が増強される。攻撃を受けても、ほとんど傷つくことはないだろう。


『鬼神の如き迅速』――― モンスターの動きは一層鋭敏かつ迅速になり、風のように速く、まるで影のように敵の攻撃をかわし反撃する。


『超感覚覚醒』―――― モンスターの感覚が極限まで研ぎ澄まされ、見えないものさえ感じ取ることができる。敵の動きや環境の変化を瞬時に察知し、圧倒的な戦術的優位を得る。


『闇の治癒』―――― 戦いの中で負った傷も闇の力によって徐々に癒される。これにより、持久戦でも力尽きることなく戦い続けることが可能となる。


・・・


・・・・・


・・・・・・・・

  

 強いな。


 いや、確か弱点も記載されていたはず! 思い出せ!


 思い出すんだ! がんばれ、あの頃の俺!


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・

 

凶化の代償デメリット』 


『刹那の輝き』―――― 凶化の効果は永続的ではない。数分間の狂乱の後、モンスターは急速に元の姿へと戻る。


『代償の疲労』―――― 力を使い果たした後、モンスターは極度の疲労に襲われる。これはしばらくの間、動くことさえままならなくなるほどの消耗である。


『暴走の危険』―――― 凶化中はモンスターの精神が不安定になり、暴走する可能性がある。指示を無視し、敵味方の区別なく攻撃する危険があるため、使い手には細心の注意が求められる。


『暗黒の力が渦巻く時、モンスターはその真の凶暴さを解き放つ―――


 ――――闇の力を操り、モンスターを凶暴な戦士へと変貌させる秘技。その代償を理解し、使いこなす者のみが真の力を引き出すことができるだろう』


 おっと……なんか、カードゲームのフレーバーテキストみたいな物まで記載されていたところまで思い出してきたぞ。


 確かに闇のオーラ(?)みたいなのに体が包まれている!


「わかってきたぜ。要するに数分間は超絶強化されるスキル。代償として『凶化』のスキル持続時間が終わったら、動けなくなるわけだ」


 要するに耐久戦って事だ。 耐久戦は苦手じゃない。なんせ、俺の『肉体強化』の魔法は――――


 だが、それどころじゃなくなった。


 『凶化』を受けたダブロスは、両肩のグリフォンに命じて魔力を放出させてきた。


「これは攻撃魔法……ではない。魔力を具現化させて武器を作ってる。あの腕で生まれようとしているのは魔剣だ!」


 魔剣――――ただの剣ではなく魔力を秘めた特別の剣の総称だ。


 だから、それは必ずしも剣の形状をしている必要はない。


「――――ないって言うけどさぁ。 ありなのそれ? なんか卑怯じゃねぇ?」


 ダブロスの腕に握られた魔剣は、巨大な斧――――バトルアックスだった。


 巨大な、巨大なダブロスの体と同じ……いや、それ以上の大きさかもしれない。


 威圧目的なのだろう。 頭上でブンブンと振り回している。


 魔法でもない、ただの風圧だけで普通の人間ならバランスを崩して立てなくなりそうだ。


 ダブロスは、バトルアックスを――――魔剣を振り落とした。


「え? 腕が消えた?」と呟きが聞こえる。 リリティの声……あるいは受付嬢だったり、召喚術師や魔物使いの声だったのかもしれない。 


 凶化されたダブロス速度は通常の人間では捉えられない。 きっと、異常な攻撃速度によって、腕が消えたように見えたのだろう。


 地面が破壊され、遅れてから音が鳴り響いた。 


「やれやれ、俺じゃなきゃやられていたぜ」


 俺は回避していた。だが、ダブロスは間髪を入れずに二撃目を放つ。


 「この! もう少し戦いの情緒ってのを楽しめよ!」


 剣で防御する。 剣がダブロスの魔剣を受け止めた瞬間、激しい衝撃が腕に伝わった。 俺の腕と剣が軋む音が響いた。


「さすがに強いな……そうだよな。ダンジョンならボス級のモンスター複数分の強いさだからな!」


 歯を食いしばりながら力を込め、なんとか押し返す。 ついでに、ダブロスの腕に打撃を叩き込む。 拳と蹴り――――ついでに剣撃を叩き込んでおいた。


 だが、ダブロスにはまったく動じる様子はない。 俺の剣でも、僅かな切傷しか作れなかった。


(やべぇ、普通の剣じゃ何発も耐えきれないぞ。 もしかして耐久戦じゃ、最初から勝ち目がなかったか?)


 どうやら、あっさりと俺の計画は破綻したようだ。


 だが、どんなに後悔しても時は既に遅し! ダブロスは止まらずに攻撃を続ける。


 巨大なバトルアックスが再び振り下ろされる前に――――


「おっと!」と素早く跳び退いた。その直後、地面が砕け、土と砂が宙に舞った。

 

 避ける。避ける。避ける……


「どうした? このまま鬼ごっこと洒落込んでも俺は構わないんだぜ?」 


 目を血走らせ、怒りの咆哮を上げる。 ボスモンスターが放つ咆哮ハウリングは特殊な効果がある。


 人の遺伝子から、原始の恐怖を思い出させる咆哮。それを聞いた者を強制的に恐慌状態にさせる効果だ。


「まぁ、俺には効かないんだけどね!」


 怒りのままにバトルアックスを振り下ろされるダブロスの顔面まで飛び上がった俺は、カウンターの刺突を叩き込んだ。


「手ごたえは――――十分にあり! 仕留めたぞ」


 俺の剣が刺さったまま、ダブロスは仰向けに倒れた。 まるで木こりが倒した巨木のような音がした。


「ふぅ……やれやれ、厄介な相手だったが、俺に本気を引き出させるには少しばかり――――」


 勝者の弁を述べようとしたが俺は最後まで言えなかった。 なぜなら――――


 『闇の治癒』

 

 『効果――――戦いの中で負った傷も闇の力によって徐々に癒される。これにより、持久戦でも力尽きることなく戦い続けることが可能となる』


「――――おいおい、即死級のクリティカル与えただろ? そこから蘇る奴がいるのかよ。徐々に癒さるってレベルじゃねぇぞ!」 


 再び、ダブロスは立ち上がってきた。

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