KAC20243 幻の美女

久遠 れんり

氷の美少女

 その発見は偶然だった。


 氷河によっては、削られた崖、氷食谷の側方から、内部にアクセスができるものがある。そんな中には、観光ルートになっているものがある。


 ルドヴィカ=リヴァルタとガスパロ=イルミナーは、旅行の途中、デートついでにその氷河へとやって来た。


 LEDにより、ライトアップされた氷河内部。


 寒さは厳しいが、距離の近くなる気温は、二人にとってはご褒美だった。その姿に対して幾人かに声をかけられた。

「そんなに熱々だと、氷が溶けるぜ」

 ガスパロは、その声に対して、笑顔で手を上げるのみで答える。

 

 そんな時、氷壁の向こうに、クレバスでもあるのだろう。


 光が見える。

 そして、光の中に人影が見えた。


 当然だが、それを見た彼女。ルドヴィカは叫び声を上げる。


 その声は、反響し、全員が集まってきた。


 観光ルートにも、崩落によりクレバスが現れることがある。

 地下にはかなりの流水が流れている。

 落ちてしまえば、ただではすまない。


「あれを見て」

 彼女が指を指す方向には、確かに人の姿をしたモノがある。


 過去にこの氷河を渡る途中、落ちた人かもしれない。

 二〇一七年には、七五年の時を超え、発見された夫婦の話しもスイスであった。


 比較的距離の近いその娘は、切り抜かれ氷の美少女とか、氷の妖精と呼ばれた。


 良くある、黒く変色をしたミイラではなく、少し透明な彫像のようで、透き通った臼衣を纏っていた。


 よくみれば、体毛の一本一本までが綺麗に判断が出来る。


 だが学者は、透明なその体がどのような状態なのか、そもそも人間なのか。

 本当に精霊ではないかと、推測ばかりが広がっていく。


 切り出された氷の箱の中で、本当にかの女は美しかった。


 少し細面で、おおよその比率で八頭身。

 身長は一七〇センチ近く。

 胸囲のトップとアンダーの差は、おおよそ一八センチ程度だろうと推測された。


 顔立ちにより北欧系スラブ系ではないかと推測される。


 人の組織は生体組織内の光の散乱と光の吸収を抑制で、透明化すると言われている。


 つまり、タンパク質を中心とする生体物質と光学的特性が近い媒体が組織に浸潤したため、組織内での光の散乱や回析を抑制。

 硬組織である骨は、ハイドロキシアパタイトを除去する脱灰が、何かにより行われた可能性があると発表された。


 彼女は、温度を保持されたまま、近くの冷蔵庫に一時安置された。


 だが、安置した室内は温度が上がった形跡もないのに、一夜にして消えてしまう。


 その建物を撮影したカメラには、泥棒などの痕跡はなく、安置時に室内に急遽付けられたカメラには、急速に溶けていく氷と、光の粒になり消えて行く彼女が写っていた。


 学者達は、温度の管理ミスにより溶けたと発表。

 彼女は、自然いたずらで、氷の中に発生した模様だと。


 だがその日、施設の外に張り込んできたマスコミのカメラには、空へと立ちのぼる光の粒が捉えられていた。


「彼女はやはり精霊で、寝ていた所を起こされたから消えたんだぜ」

 そんな話が、まことしやかに語られていた。





 だが。

 ――ちょっと寝ていただけなのに。

 ――見られたぁ。

 そんな事を、黒歴史として語る精霊がいたとか。いないとか。

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KAC20243 幻の美女 久遠 れんり @recmiya

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