【KAC20243】びっくり箱について雑談するだけの話
猫とホウキ
開けてびっくり……
「びっくりさせたいんですよ」
カフェにて友人のA子が、唐突にそんなことを言った。私は首を傾げながら返事をする。
「はあ。誰を、何のために、ですか?」
「いつもお世話になっている方に、いつもお世話になっているお礼に」
「はあ。まあ、普通にプレゼントでもすればいいんじゃないですか」
「いえ、びっくりさせたいんです。とにかくびっくりさせたくて」
「嬉しい物を貰えれば、とにかくびっくりするのでは?」
「いえ、度肝を抜きたいんです。心臓を撃ち抜きたいんです」
「心臓を撃ち抜かれたら死んでしまいますが」
「箱を開けた瞬間に驚かせたいんです」
「はあ。つまり『びっくり箱』を作りたいということですね」
「そうです。びっくり箱です。開けた瞬間に昇天させたいんです」
「それなら爆弾でも入れておけば良いのでは?」
「間違えました。昇天じゃなくて仰天です。殺したくはありません」
「コブラあたりを入れておけば、分かりやすくびっくりすると思いますよ」
「だから昇天じゃなくて仰天です。猛毒は禁止事項です」
「毒矢が飛び出してくるとかはどうですか?」
「だから昇天じゃなくて仰天ですって。猛毒は禁止事項ですって。真面目に考えてください」
「はあ。真面目に考えるなら、普通に『相手が欲しいものをプレゼントすればいいんじゃない』としか言えないですけど。どうしてもびっくり箱?」
「はい、びっくり箱です」
「毒ガスとかどうですか?」
「だから昇天じゃなくて仰天ですって。猛毒は禁止事項ですって。何度も同じこと言わせないでください」
「あらゆる災厄が飛び出してきて、最後には希望も残らない箱とかどうですか?」
「なんですかその『気休め程度の救いすらもないパンドラの箱』みたいな話は。せめて希望は残してください」
「白い煙が出てきて吸ったら老人になる上に性別が変わる箱とかどうですか?」
「そのタイミングで
「はあ。じゃあ現実的な話とすれば、見るも無惨に崩れたケーキとか、中身がスカスカのおせちとか、そういうものを入れておけばたぶんびっくりしますよ」
「確かに現実にあった話ですけども! そういうことではなくて! もっとポジティブにびっくりさせたいんです!」
「欲しいものを貰えるのが一番ポジティブにびっくりすると思いますよ」
「そうかもしれませんけど。その正論とボケを行ったり来たりする揺さぶりに少し疲れてきました。ほどよい感じにお願いします」
「箱の中にびっしり食用のコオロギを詰めるとか?」
「ほどよくない!」
「タランチュラの味がするチョコレートの味がするタランチュラが飛び出してくるとか?」
「それはただのタランチュラです! でも虫の形をしたチョコレートは悪くないかも?」
「センスないですね。タランチュラの形をしたタランチュラにしておくことをお勧めします」
「だからそれはただのタランチュラですって……。どうして真面目に考えてくれないんですか?」
「いや毒の話ばっかりしたせいか、毒のことしか思いつかなくて。世界最強クラスの毒を持つヤドクガエルとかどうですか?」
「毒の話ばかりしたのはあなたの勝手ですけどね。何度も言っていますけど、猛毒は禁止事項です」
【おわり】
【KAC20243】びっくり箱について雑談するだけの話 猫とホウキ @tsu9neko
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます