第八話 隅っこの空

「シールド全方位展開」

「はーい」


 小さな立方体がほろほろとほどけて消えてゆくと、アカリのシールドの外には箱兵器の群れがいた。


「くさ!」

「くっさー!」


 ヒナとカイトが同時に声をあげる。

 予想通り、異臭が漂っていたからだ。

 ここは東の箱と北の箱が接していると、学校で教えられた場所。

 僕らが住んでいる虚空蔵市の北東の果てとも言える場所だった。

 ヒナとカイトの声に反応したのか、自転車、バイク、車で構成された白い群れが一斉に動き出した。


「アカリは二か所の隙間を開けてシールド維持! あとは作戦通り! 以上!」

「はーい」

「了解」

「はいさー!」

「うん!」

「け、それが作戦かよ」

「ケンちー、働け!」

「す、すみません」


 作戦は簡単なもので、カイトは前方、スイは後方のシールドの隙間からそれぞれ射撃してダメージを与える、僕、ケンジ、ヒナは狭い隙間を抜けてきた箱兵器を三人がかりですぐに潰す。これだけだ。

 だが、アカリの集中が切れてしまえば、シールドは消え去ってしまう。それまでにどれだけ減らせるかがこの作戦の鍵ともいえた。


「バイク、一!」


 カイトが声をあげる。

 バイク型の箱兵器が一体侵入してくるということだ。

 すかさず三人で前方に集まり、無造作に突っ込んできたバイクの軌道に、僕の剣を置いて両断する。


「自転車、二!」


 今度はスイの声。

 同じように後方に集まり、ケンジの拳とヒナのハンマーで潰していく。

 自動車の箱兵器は、やはり隙間から入ってくることができず、クラクションを鳴らしながら、周囲をぐるぐると旋回しているだけだった。

 僕は皆で考えた作戦がうまくいっていることに、一つ、また一つと消えていく箱兵器にほくそ笑む。

 やがて、箱兵器が車二台だけとなったとき、アカリが怒ったように声を張り上げた。


「もう、いやあー!」


 同時に腕も振り上げ、シールドをそれぞれの自動車に叩きつけて、箱兵器の群れを全滅せしめたのだった。


「うぇーい!」

「うぇーい!」

「勝った」

「もう! 手が上がんないよぅ!」

「やったな!」


 ケンジが素直に喜んだあと、顔を赤らめているが、それを除けば想定の範囲内である。

 アカリの腕のことは可哀想だが、あとでヒナとスイにお願いしてマッサージしてあげれば、どうにかなる、と信じたい。ちょっと怒っているように見えるから、心配ではある。

 けれど、一見、無事に終わったかに思えた僕たちの作戦にはまだ続きがあった。


「スイ、壁のずっと上を見てくれ」


 彼女は双眼鏡を取り出して、空を見上げた。


「空は折れているか?」

「うん、折れてる」

「どっちに?」

「内側」

「予想通りだな。みんなもう一仕事だ! ここの動物の死骸を埋めた後、壁を壊すぞ!」


 巨大な箱の壁は、皆の武器でも傷を付ける程度のことしかできなかった。

 ただ一つ、僕の剣を除いては。

 僕の剣は確かに壁を切ることができた。

 たとえ、全てを破壊できなくとも、もう、壁に阻まれることはないのだ。


 僕らはそうして箱の外へ一歩を踏み出した。

 本物の空の色はこれまでと変わらなくて、だけど今までよりずっと光り輝いていた。


 ――これは、僕ら〝リビーラー〟が箱の中を暴き出す物語。



『箱の楽園』 ― 完 ―

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箱の楽園 津多 時ロウ @tsuda_jiro

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