第五話 リーダー②

「おい!」


 ケンジが上を見て叫び、皆も一斉に空を見る。

 そこにいたのは、すぐそこに浮かんでいたのは、小さな立方体が集まった真っ白な戦闘ヘリだった。


「おい!」


 ケンジがもう一度叫ぶ。


「アカリ! シールド!」


 僕も叫ぶ。

 目の前、地面すれすれに浮いているのは、機関銃とロケット弾をこちらに向けたヘリコプターである。なんの遮蔽物も無いここで機銃掃射などを受けてしまえば、密集している僕らなど、肉片も残らないほどずたずたにされてしまうだろう。だから、まずはシールドだ。幸いにしてダウンウォッシュ下降気流はない。

 だが、いつもならすぐに現れるはずのそれは、なかなか展開されなかった。


「アカリ!」


 もう一度、叫びながらアカリのいる方へ眼を向ければ、彼女は体を抱えてしゃがみこみ、ガタガタと震えているではないか。


「ケンジ! 正面左の機関銃を頼む!」

「ちぃ! もうやっている!」

「ヒナは正面右の機関銃だ!」

「うん!」

「スイとカイトはロケット弾! 誘爆を狙え!」

「了解」

「はいさー!」


 彼女はどうなったと見れば、アカリはやはりしゃがみこみ、震えたままだった。

 背後では、激しい衝突音と、軽重の入り混じった銃声、そして爆発音も聞こえてくる。

 ヘリコプターに立ち向かわせた四人が、いかに超人的な機動力を発揮できるといっても、それはあくまでも瞬間的なものなのだ。

 六人全員が無事に帰還することを確実にするためには、アカリの持つ無制限の防壁が必要不可欠なのである。

 だから、僕は何が何でも、アカリを立ち直らせなければならなかった。この場で、すぐに。そうしなければ、全滅の未来もあるのだから。


「アカリ、しっかりしろ」

「だめ、恐い……」

「うん、分かるよ。僕も恐いから」

「……リーダーも恐いの?」

「恐いものは恐いよ。でも、それはアカリのシールドがないからだ。カイト、ケンジ、ヒナ、スイと違って僕と君には超人的な機動力は身につかなかった。だから、シールドがない今の状況は、とても恐い。自分が死ぬことは恐いけど、仲間が死ぬことはもっと恐い」

「……そうよね。私のシールド、とっても頑丈だもんね。うん、私、やってる」


 そうして、アカリはしっかりと前を見て立ち上がった。

 彼女と、そして僕の視線の先では、ケンジ、ヒナ、カイト、スイの四人が懸命に走り回って攻撃を加えていたが、お揃いのジャケットには傷が目立ち、戦況は芳しくない。

 アカリは両の手のひらをやや外側に開いて突き出し、その先には赤みがかった半透明の壁がそれぞれ現れた。

 僕はアカリの意図を汲み取り、四人に向かってこれ以上ないくらい大声で叫ぶ。


「退避! すぐに退避だ! 退避しろ!」


 その声は無事に届き、カイトなどは分かり易くギョッとした顔をして、戦闘ヘリから離れていく。

 四人全員の退避が完了したその瞬間、アカリは両腕を内側に動かし、半透明の壁で戦闘ヘリを粉砕した。

 僕は、そういうことじゃなかったんだけどな、と内心では思いつつも、取り得る戦略の幅が増えたことと、今回も無事に全員生き残れたことを素直に喜んだ。

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