(へっぽこ改めて)新人占い師2

@ku-ro-usagi

ショートショート

友人

「私はね

相手の話を聞いて聞いて聞いて

この先

本人がどうしたいのかどうなりたいのか

その上で占って

その道の先がもし真っ暗ならば

何とか明るい道に軌道修正してあげたいと思う」

飲みながら理想論を語る

そんな新人占い師の今日のお客様


1人目

「先月

有名な先生に電話占いしてもらったんです

そしたら

『気持ちが落ちていたり鬱っぽくなると

霊的なものとチューニングが合ってしまうから

明るい音楽を聴いたり明るいものに触れて

毎日を気分よく過ごしなさい』

ってアドバイスされたので

前向きな名言集を読んだり

楽しい映画を観たりお笑いのライブ行ったりしたんです

そしたら

交差点を

『イーヒャーヤッフゥ!!』

って叫びながら

猛烈ダッシュして信号機に激突

それを繰り返しては

頭から血を噴き出している人

絶えずジャンプしながらすれ違う人と背比べして

それでも負けるとその場で全力シャウトする人

『見たい見たい見たい!女の子の裸見たい!!』

って絶叫しながら

雑居ビルの壁をよじ登ってる人

そんなテンション高めの人たちとチューニング合うようになっちゃって……

どうすればいいでしょう?」


2人目

珍しく男の人

「サイクリングで峠道越えてたら

剥き出しの側溝に何か動くもの見えて

何だ?って見たら狸が挟まってたんです

身動き取れないらしくて

持ち上げて引き上げてやったら

そのまま山の斜面登っていって消えたんです

それから1ヶ月も経つのに

恩返し的な奇跡が何も起きてないんです

おかしくないですか?(真顔)」


3人目

「デートで彼氏と乗った観覧車で

私たちの後ろに1人で乗ってた女の子が

彼氏の元カノだったんです

彼氏も

元カノが整形してて全然気付かなかったって

ガチのストーカーだったんです

それで

そのストーカーのターゲットが私みたいで

今もこのビルの下まで付いて来ていて

もしかしたら

この部屋のドアの前まで来てるかもしれなくて

どうすればいいでしょうか?」


「どうしたの?」

友人

「警察呼んだよ

防犯カメラ見たら

お医者さんが使う聴診器あるでしょ?

ドアの前にしゃがみこんで

聴診器をドアに当ててこちらの話を聞こうとしてる姿が映ってた」


笑ったら怒るだろうから我慢する

「もう暴れて大変だったよ

警察官3人でも全然駄目で応援呼んでたもん」

理性のない人間のパワーというのは凄まじいものなのだな


あとわりと相談者の悩みの幅が広い

「そう、専門外な事も多くて勉強が追い付かないよ」

日々勉強なのは占い以外の知識も必要なのね


狸の恩返し希望の彼にはどう返したの?

「自転車乗ってる時に幾度か危ない目に遭いましたよね?

それを助けてくれていますって言っておいた」

それバーナム効果だっけ?

出来事を都合よく自分に当て嵌める心理学

「嘘も方便だよ」

占い師が言うと説得力凄いな

友人曰く視てみたけど

狸はそんなこと1つも覚えてなくて山で生活してるって


じゃあ

電話占いで明るく生きろって言われた人は?

「あのね、市販の○○の○○薬飲むと

人によってはチューニングスイッチ切れるからオススメしといた

半分くらいの確率だけど」

うーん

ならば

○○を小瓶に移して

「貴重なお薬」

とか言って馬鹿高く売り付ければいい

「怒るよ」

ごめん


前回

友人に最短の未来予知をしてもらい

結果

人が人を刺すところを初めて見せられて以来だったため

「今日はいいよ」

と怖じ気付いて断ると

「視るから奢ってよ」

と奢り目的で無理矢理視られた

「あら?」

あら、だって

「何?」

「えー?へー?」

なんだよ

友人は何か楽しそうにニヤニヤしながら

「ヒント、髪の毛」

と自分の髪を撫で

それ以上は何も教えてもらえず

そしてその後にも何があるわけでもなく

その日は

ごく平和に解散した


私は世間では嫌われものの喫煙者なんだ

でも

1人の時しか吸わないルール

その日も部屋に帰ってから一息吐こうとしたら

「あれ?」

ライターがない

拘りもないから使い捨てなんだけど

適当な棚を空けても予備のライターもなく、マッチもない

「あーもう……」

コンビニ行けばいいんだけどさ

面倒だし負けた気がする

ふと

キッチンのコンロが目に付き、目の前に立ってみたけれど

だけどすぐに

(あ、これか)

友人の見た未来が私にも見えた

これで多分私は

煙草と顔をコンロに近付け過ぎて髪を燃やすのだ

それでショートにでもせざるを得なくなる

友人にはきっと

その過程は視えておらず

ショートカットにでもした私の姿が視えたのだろう

(うん、コンビニ行こ)

大人しくライター買いに行って

新しい煙草も補充しておこう

そうしよう


そして

「あれー?」

1ヶ月ぶりに会った友人は首を傾げていた

「ベリーショートじゃない!?」

いや友人の中の未来の私どんだけ髪の毛燃やしたんだよ

それでよく顔を火傷しなかったな

「何でボブなの?」

何でって

それでもね

私は

友人が自分の予知が外れたと落ち込む姿を見るのが忍びなく

髪を切ったのだ

自分の優しさに涙が出る

なのに

「煙草も吸ってるしー」

胸ポケットに入れたままだった

しかし

不服そうな友人の言葉に

「煙草も吸ってるしって……?」

それは

もしかして

視えてたのか

コンロで煙草に火を点けて髪を燃やすところを

「そうだよ

大慌ててでキッチンの水道の水を頭から掛けてさ

でも片側だけチリッチリッで……ププッ

でもおかしいなぁ?

それを切っ掛けに髪の毛短くして煙草も止めたはずなのに」

こいつは……

火傷の危険もあったのに

「髪の毛だけだし、 私が見た未来じゃ禁煙だってしてたんだよ」

納得いかない的な顔をされるが

それはこっちの台詞と心情だ

もうね

こっちはこっちで

「もう意地でも禁煙なんかするか」

宣言するよ

元々禁煙なんかする気もないけれどね

無性に腹立つから

死ぬまで吸ってやる

「えーっ!?」

えーじゃないよ全く

人の危険を察知しつつ黙ってるなんてなんて奴だ

その日はでも

私以上に友人は不機嫌なまま

占ってもくれないのに飲み代を奢らされた



あぁそうだ

換気扇に吸い込まれていく紫煙を

私はただ眺める

嫌煙な友人は絶対客には勧めないし認めもしないけど

煙草も結構役に立つんだよ

魔除けに

だから私は吸い続けるし

吸い続けなければならない

友人の未来予知での私は

きっと友人には

「禁煙する」

なんて嘘を吐いていたはずだから

未来が外れて良かったよ


嘘は良くないし

泥棒の始まりだからね



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