私は宝箱になりたい【KAC20243】

長多 良

私は宝箱になりたい

 私は宝箱になりたい。


 もうお前は宝箱だろうって?


 とんでもない。人を見た目で判断しないでほしい。


 私はミミック。つまり、宝箱に擬態した、ただのモンスターだ。


 宝箱のふりをしてダンジョンに潜み、

 冒険者が本物の宝箱と勘違いして開けた瞬間

 バクッ!と食べてしまう。


 それがミミックだ。


 だが私はそんなモンスターよりも本当の宝箱になりたい。


 私は気付いてしまったのだ。宝箱の素晴らしさに。


 ある日、私は本物の宝箱の隣に並んで冒険者を待ち構えていた。

 だが、その冒険者は魔法で私の正体に気付き、

 私の事を無視して隣の本物の宝箱を開けた。


 その時私は見た。


 宝箱を開けた瞬間の、冒険者の喜びと感動に満ちた笑顔を。


 宝箱になれば、こんな素晴らしい笑顔を見ることができるのか。


 私もあの笑顔が見たい。

 隣で見ているだけでなく、私自身が宝箱となって、自分の力で人を笑顔にしたい。


 それから私は、ダンジョンの中で本物の宝を探し回り、

 自分の体の中にため込んだ。


 そしてできるだけ怪しくないように自然に、

 それでいて見つかりやすいような、絶妙な場所を見つけ出し、

 そこに鎮座した。


 私は待った。

 冒険者が私を見つけてくれる時を。


 そしてついにその日が来た。


 一人の冒険者が私を見つけてくれた。


 魔法で正体を見破られたらおしまいだが・・・・

 幸いにもその冒険者は魔法は使えないようだった。


 警戒して慎重に調べられたが、

 完璧な宝箱になるべく努力した私の正体がバレることはなかった。


 冒険者は安心して私の蓋に手をかける。


 その顔は期待に満ち溢れていた。


 ああ・・・ついに、私も本物の宝箱として、

 あの笑顔を見られるのだ・・・。


 そして冒険者が私の蓋を開け放った。

 私の中身の宝を見たその表情は・・・


「なーんだ、こんな程度の安物か」


 ・・・・笑顔ではなかった・・・・。


「あーあ、もっといいお宝かと思ったのになー。仕方ないか」


 ガッカリした表情で、私の中の宝を取ろうと、私の体の中に手を突っ込んだ。



 ・・・・。


 私は力の限り、私の蓋を・・・私のを閉じた。


 何度も何度も、何度も繰り返し閉じた。


 ◆


 私は宝箱になりたい。


 本物の宝箱になりたい。


 本物の宝箱を開けた時、冒険者は本物の笑顔を見せてくれるのだ。


 私はまた宝物を探して、体の中にため込み、

 ダンジョンの中で冒険者を待つ。


 本物の笑顔を見れるまで。


 何度でも、何度でも。



 了

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私は宝箱になりたい【KAC20243】 長多 良 @nishimiyano

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ