シェアハウス

sorarion914

IN THE BOX

【求む!サプライズが好きな人】


 この珍妙な募集広告に惹かれて、俺はその場所を訪れた。


 親元を離れて初めての1人暮らし。

 理想は高く掲げたものの……現実はそう甘くはなかった。

 都会の家賃は想像以上に高く、まともに稼ぎがない今の自分には、お洒落なワンルームに住むゆとりなどなかった。

 そこで思いついたのが、シェアハウスだ。

 皆で済めば家賃も折半。共同生活の煩わしさはあるかもしれないが、もともと大勢で過ごすのが好きな自分には、うってつけのように思えた。

 問題は一緒に住む人間との相性だろう。

 大抵の人間とはうまくやっていく自信はあったが、念のため、いくつか当たってみた中で、無性に心惹かれる謳い文句が、例の【求む!サプライズが好きな人】だった。


 サプライズが好きな人?

 一体どういう事だろう?

 人を驚かすのは嫌いじゃないが、程度にもよる。

 募集主が求めているサプライズが、いったいどのようなものなのか……一度会って話が聞きたい。

 そう思って連絡を入れたら、ぜひお越しください――という事だったのだが……




 俺は今、困惑している。



 何故なら。

 目の前にあるのは、ではなく、だからだ。


 キレイな立方体。

 しかも外壁は水玉模様の装飾が施されていて、何とも派手だ。まるでラッピングされているかのように見える。これでリボンでもかけたら、可愛らしいプレゼントの出来上がりだ。

 それも巨大な。


 呆然と見つめていると、ふいに箱の一部が扉のように開き、中からピエロの様な恰好をした男がニコニコ笑いながら出てきた。

「やぁ、お待ちしていました。どうぞ中へ」

 促されるまま、俺はの中へ入った。

 意外にも、中は普通の家だった。

 ただ唯一、違っていたのは部屋のほぼ中央に、ロケットの発射台のようなものが設置されていたことだ。そして今、まさにその発射台に男が1人座ってニヤニヤと笑っている。

 派手なレインボーカラーのカツラをかぶって、これまたピエロの様な奇妙なメイクと服装。両手にはくす玉の様なものを抱えている。

「そろそろが開く時間だよ」

 家主の男がワクワクした様にそう言って、嬉しそうに俺を見た。

 5,4,3,―――と、カウントダウンが始まる。

 2.1――――男がそう言った時、突然、天井が開いた。


 文字通り、パカッと開くと、発射台に乗せられた男が「ヒャッホ――ッ!!」と叫びながら、空高く打ちあがる。


 と同時に、キャーという子供たちの悲鳴が上がり、発射台の男はまるでバネ仕掛けの人形のように上下に何度も跳ねた。

 男が抱えていたくす玉が割れて、中から大量の紙吹雪が降ってくる。まるで散り始めた桜の花びらのように、それが天井からヒラヒラ舞い落ちてきた。

 俺は呆然とその様子を見つめていた。

 家主の男は、楽しそうに笑いながら言った。

「どうだい?君も僕たちと一緒にここで暮らさないか?」

「は?」

 俺は何をどう返していいのか分からず困惑した。

「あの……」

 それでも、なんとか気を取り直して家主の男を見ると、聞かずにはいられない最大の質問を必死に絞り出して言った。


「あの……ここはいったい、なんなんですか?」


 すると家主の男はニッコリ笑って言った。


「見ての通り。ここはですよ。あなたもどうです?我々と一緒にここに住んで――人々を驚かそうじゃありませんか!」


 気が付けば、俺の周囲にはたくさんのピエロが集まってきていた。

 みんなここの住人。

 愉快で楽しい、シェアハウスのJACK悪戯小僧達だった。

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