授与式

 魔族戦争が終結して一か月後、俺は王城で大々的なセレモニーを開催した。

 勇者チームへの褒章授与式である。

 広い謁見の間には、魔王を討伐した勇者たちを一目見ようと、国内主要貴族のほとんどが集まっていた。

 俺は玉座の上から、彼らの顔を見渡す。

 王国内には、まだ魔族災害の爪痕が深く刻まれている。

 戦争中にマティアスの味方をしたゼクセン侯たちの処分もまだ終わってない。

 俺の前にはあいかわらず課題が山積みだ。

 だが、ひとつの区切りとして勇者たちをたたえる儀式を行いたかった。


「魔王急襲特攻隊、勇者チーム、ここへ」


 俺が声をかけると、扉の奥から勇者たちが姿を現した。

 勇者アレックスを先頭に、ゆっくりと歩いてくる勇者チームを見て、ほう、とあちこちから感嘆のため息がもれる。

 元からキレイだが、正装したアレックスはなんか本当に輝いてるんじゃないかって思うくらいに美しいからな。

 彼らは俺の前までくると、いっせいに跪いた。


「そなたたちは、魔族との戦争において特に大きな功績をあげた。よって、それぞれに特別な褒美をとらせる」

「ありがたき、幸せ。恐悦至極にございます」


 俺はそばに控える小姓たちに視線をやる。

 小姓は三人。

 彼らはそれぞれ、手に大きな四角い盆を持っていた。


「騎士エドワード、そなたには新たに男爵の位と、近衛騎士隊長の任を与える」

「は、謹んでお受けいたします」


 小姓のひとりが盆をエドワードにささげる。

 そこには、真新しい近衛騎士の制服と、隊長の地位を示すブローチが載せられていた。

 エドワードはそれをうやうやしく受け取った。


「魔法使いスカル、そなたには魔術研究所の特別研究室のひとつと、特別顧問理事の位を与える」

「……感謝いたします」


 スカルの盆にもまた、豪華な縫い取りがついたローブと、理事の地位を示すブローチが置かれていた。

 スカルがゆっくりとそれら一式を受け取る。


「神官ユリアン、そなたは最高位神官への昇格を許可する」


 ユリアンの盆にのっているのは、許可証だけだ。

 これは位の授与そのものが神殿の領分だからである。形式上の話だが。

 ユリアンが盆を受け取ったところで、貴族たちの視線がいっせいにアレックスへと集中した。

 他三人と違い、アレックスに与える褒美については何も情報が公開されていない。

 勇者が王から何を受け取るのか、気になるのだろう。

 俺は、玉座から立ち上がった。

 それを見て貴族たちが一様にざわつき始める。

 威厳を示すべき王は、玉座から立ち上がったりしないのが通例だからだ。

 しかし、俺がこれからすることのためには、必要なことだ。


「勇者アレックス、褒美を与える前に言いたいことがある」


 周囲が戸惑うなか、俺は玉座を降りた。歩いてアレックスの前に立つ。


「アレックス、立て」

「えっ……そんなこと」

「いいから、立て」


 俺の命令に従って、アレックスが立つ。

 所在なさげに立つ彼女と入れ替わりに、俺がアレックスの前に跪いた。

 膝を折る王の姿に、貴族たちがさらにどよめく。


「陛下?!」

「アレキサンドラ、俺の妃になってくれ」


 とまどうアレックスの手をとって、その指先にキスする。


「愛している、俺の人生にはお前が必要だ」


 勇者はかあっと頬を赤く染めた。

 プロポーズする俺に彼女が求めたもの、それは愛情だ。

 俺を愛しているから、俺からの愛がほしかったのだ。

 そう考えると、初夜の朝に求婚が断られた理由がよくわかる。

 あの時点の俺は、アレックスのことなんてこれっぽっちも愛してなかったんだから。

 ただ都合がいいからとプロポーズされたってうれしくない。

 恋する乙女なぶん、余計に。

 求婚を断りながらも、ずっと俺にまとわりついてたのだって、同じ理由だろう。

 アレックスは俺に興味を持ってもらいたかったのだ。

 尽くして振り回して、俺の視界に無理やり入る。

 鈍い俺はそうでもしないと、気持ちに気づかないから。


「それ……本気で言ってます?」


 涙目で問われる。

 答えに気づいただけじゃ意味ないもんな。


「ああ、お前がほしい。俺だけが独占したい」


 これは、心からの告白だ。

 貴族全員の目の前で宣言するなんて、恥ずかしすぎるが。

 そう思った瞬間、体に衝撃が来た。飛びつかれた勢いのまま、ふたりまとめて床に転がる。


「ウィルヘルム陛下……!」


 俺に抱き着いてきた勇者が、首にしがみついてるせいで体が起こせない。引きはがそうにも、感極まって泣いてるものだから、どうにもできなかった。

 しょーがねーなこいつ。

 俺も大概だが。


「王妃になります! ずっと……ずっと愛していますぅぅぅ!」

「もう断るなよ」

「陛下が撤回したって離れません!」


 ぱち、ぱち、と抱き合う俺たちに向けて誰かが拍手を始めた。

 拍手は集まった者全員に伝染して、ついには謁見の間じゅうに大きく響く。

 そうしてようやく俺は、勇者を嫁にすることができた。



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これでお話は終わりです!

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王×勇。魔王を討伐した女勇者に童貞を要求された国王ですが、求婚したら断られました。なんでだ。 タカば @takaba_batake

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