KAC20243 桜の下。彼女との約束

久遠 れんり

桜の下で彼女を待つ男

「今年も待っているのですか?」

「ああいや。そばに居るからもう安心」

 そう言って彼は、一つの箱を抱えていた。


 その人に会ったのは、もう四年くらい前だろうか?

 春先の桜が咲いている期間、ずっとベンチに座っている。

 河川敷の桜が咲き誇る木の下。


 毎日会うから声をかけたのが最初。

 この時間、マイを散歩させる時間なので、つい声をかけた。

 マイも、最初の頃は暴れたが、調教が進み良い子になった。

 今は、横でじっと、まてが出来る。


「高校三年の時に、僕は大学に行くため、彼女と離れることになって。それでもまあ、春休みには帰るから、一緒に桜の花を見ようと約束したんです」

 彼は悲しそうに、言い渋っていた理由を言ってくれた。

 何か悪い事を聞いてしまったな、その時私はそう思ってしまった。


「そうですか、彼女が現れなくて待っていると?」

「いいえ。まあ良いんです。元気ならば」

 よくわからない答えだが、私たちは頭を下げて、その場を後にする。


 それからも、声をかけることはないが、ずっと彼はいた。

 彼は毎年、この時期になると帰ってくるらしい。

「ああ、そう言えば、大学生だと言っていたなぁ。来年は卒業か」

 いつの間にか、彼の顔を春先に見ることになれてしまった。

 春の風物詩だな。


 流石に卒業をしてしまえば就職。

 就職をしてしまえば、流石に学生の春休みのような休暇は取れないだろう。

 なら、彼はこっちに戻ってくるのか、向こうで就職をするのか。

 私が気にすることでもないが、もし帰ってこなくなるなら少し淋しい。


 そんなことを考えていた矢先、忽然とマイがいなくなってしまった。

 あんなに愛して可愛がっていたのに。

 少し目を離した隙に……


 私は探し回った。必死で。


 だが見つからず。


 ようやく諦めかけた頃。


 そう、この季節になっていた。

 桜の花が咲く木の下で、やはり彼はベンチに座り桜の花を見ていた。

 日課の散歩をしなくなり、少し時期を外したようだ。

 

 風が吹くたびに花が舞い散る。残桜ざんおうはあるが、もうすぐ葉が出始めて、今年の桜も終わるだろう。


 そんな光景の中、彼はいた。

 いつもと同じ? いや。彼はいつもと違い、少し大きめの箱を慈しむように抱えていた。


 つかれていた私は、つい彼に声をかけた。

「今年も待っているのですか?」

 だが、私の顔を確認すると嬉しそうに微笑む。


「ああいや。もうそばに居るから。安心です」

 そう言って彼は箱を抱える。

 慈しむように……


 丁度、花瓶か、――人の頭がぴったり入るような大きさの箱。


「そうですか、良かったですね」

 なぜかその彼の表情を見て、私ももう少し探そうかと心を決める。


 マイ。牧村舞。彼女を……


 うん? そうか、マイは彼と同じ歳か……

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