第31話 反省
「────少し取り乱したわ」
数十分間の間先ほどの調子でずっと話し続けていたシアナだったが、ようやくそれも落ち着いてそう言った。
それを聞いたバイオレットは、落ち着いた声音で言う。
「少し、ですか?」
「う、うるさいわよ!それより、さっきはルクスくんへの感謝ばかり話したけれど、私はルクスくんに悔いていることもあるのよ」
「悔いていること……ですか?」
「ルクスくんが悪いことなんてこの世にあるはずが無いのに、私は感情的になってルクスくんの方に怒りの感情を向けてしまった……本当に情けないわ、そのせいであのルクスくんに頭まで下げさせて」
シアナが感情的になってしまった理由は言うまでもなく、ルクスがシアナ以外の女性を自室に連れ込んだと思ったからだ。
朝ルクスに女性を屋敷に招かないようにと伝えたことを破って、シアナ以外の女性を自室に招いた……学生の場合はその限りでは無いものの、貴族がその自室に女性を招くというのはやはり何か特別な意味を感じてしまうものだ。
そして、それに重なってシアナのルクスへの愛情や、他の女性とルクスに触れ合って欲しくないと思う感情が重なり────ルクスに怒りを向けてしまった。
「本当に恥ずべきことよ、怒りを向けるべきはルクスくんじゃなくてフローレンスの方なのに……あの女、ルクスくんの自室に行きたいなんて、どうせルクスくんの自室で二人きりっていう状況を利用してルクスくんと仲良くなろうとしてたんでしょうね」
「……結果的にそれが成功したのかどうかはわかりませんが、ロッドエル様の様子を見た限りではそこまで大きな進展があったようには思えません」
「そうね……ルクスくんの自室に他の女が入ったなんて事実だけで吐き気がするけれど、それはそれとして、やっぱり他の貴族の家で行動を起こすのはかなり難しいと思うわ」
「はい、なので今後より警戒すべきはロッドエル様の自室にフローレンス様を招くことではなく────」
「ルクスくんがフローレンスの屋敷に行くこと、ね」
それを聞いたバイオレットは頷く。
「その通りです」
「もしルクスくんが一人であの女の屋敷に行ったりしたら、本当に何をされるかわからないわ」
「……ロッドエル様は、暗い部分を知らない分、その暗い部分への警戒心もありませんので、我々がその部分をフォローする必要があります」
「わかっているわ……とにかく、ルクスくんがあの女の屋敷に行かないようにだけしないといけないわね、今後もしルクスくんがあの女の屋敷に誘われるようなことがあれば、それを断るように伝えておくわ……いえ、あまり考えたく無いけれど、もう誘われている可能性もあるわね」
「どちらにしても、確認を取るのが得策だと思われます
「そうね、あとは────」
「シアナ、そろそろご飯の時間みたいだから、一緒に食卓まで行こう」
シアナが続きを話そうとした時、シアナの部屋のドアがノックされ、ドアの前からルクスの声が聞こえてきた。
ルクスの声が聞こえてきたシアナは、慌てた様子で声を上げる。
「は、はい!ご主人様!すぐに行きます!」
そして、シアナはバイオレットに小声で言った。
「あなたはこの部屋で待機していなさい」
「かしこまりました」
────その後、ルクスとシアナは一緒にご飯を食べ終えると、ルクスとシアナは朝約束した通り二人で夜の時間に話すために二人でルクスの部屋にやって来た。
◇ルクスside◇
僕の部屋でシアナと楽しく話していると、少し話が落ち着いたときにシアナが真面目な表情で言った。
「ご主人様に一つお聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「うん、何?」
「今後、フローレンス様のお屋敷に行く予定はありますか?」
「うん、あるよ、今度フローレンスさんの屋敷に行かせてもらうことになってるんだ」
本当のことをそのまま伝えると、シアナは小さく頷いて聞いてきた。
「そうなんですね、どちらからお誘いを?」
「フローレンスさんからだよ、屋敷内の装飾とかの話になって、その流れで今度フローレンスさんの屋敷にも招いてもらえるってことになったんだ」
それを聞いたシアナは、少し考えた素振りを取ってから言った。
「フローレンスさんのお屋敷に行く時は、私も同行させていただいてもよろしいでしょうか?」
同行……あぁ、シアナもフローレンスさんの屋敷の内装とかに興味があるのかな。
「うん、良いよ、フローレンスさんにも確認を取ってみるね」
「ありがとうございます!」
シアナは、嬉しそうにそう言った。
その後も僕とシアナは楽しく話し合いながら過ごし、そろそろ眠る時間に近づいて来たところで、シアナは僕の部屋から去って行った。
……シアナは普段からずっと頑張ってくれているし、今度何かサプライズでもしてあげたいな。
僕はシアナにサプライズすることを考えるだけで楽しくなり、どんなサプライズをするのか考えながら眠りへと落ちた。
◇シアナside◇
自室に戻ったシアナは、自室で待機していたバイオレットに話しかける。
「……あの女、もうルクスくんのことを自分の屋敷に誘っていたわ」
「そうですか……手がお早いですね」
「えぇ……でも、私も同行して良いということになったから、そのことは問題ないわ────それよりも、王族交流会の時にどうルクスくんと関係性を深めるのかの計画を進めましょう」
「承知しました」
その後、二人はしばらくの間王族交流会でルクスと距離を縮める計画を進め────約一週間後。
愛の攻防が繰り広げられる、王族交流会が幕を開ける。
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