第6話 能力の調査に来ました。

「この下、この方向に水脈があります。50メートル下くらいですかね…?」

「……所長、事前に魔術ギルドで行った調査とおおむね一致しています。」

「ふむ。かなり精度がいいみたいじゃのう。では今度はあの山の方まで行ってみましょうかの。」

「はーい」

今、私はある村はずれに来ています――。

ここはディミクレオ領南東に位置するサコロッカという村だと聞いた。主産業は酪農らしく、どこか牧歌的なのどかさだ。

ティーナの家からは馬車で丸一日かかった。伯爵家の豪華な馬車でも現代人のやわなお尻をカバーすることができなかったらしく、後半はお尻の痛さに悩まされながらもどうにかたどり着くことができた。

今回は固有能力の調査ということで、事前に調査されていた地下水脈が検知できるのかどうかを調べてもらっている。

通常この世界で水脈探しといえば、何人もの魔術師でしらみつぶしのように探査魔法を地下へ向かって照射するらしい。ただ個人の力量や人数によっては、一日で1キロ四方を探査するのが精一杯の場合もあるようだ。

一方私の”地下水脈探知”といえば、視線を向けた先に(あっ、あるな)と知覚できる。謎のアンテナが頭に取り付けられたような感覚だった。場合によっては頭頂部中心点がそわそわして毛が逆立つ感覚もある。妖怪ア〇テナに近いものがあるかもしれない。

今先導してくれているのはディミクレオ家お抱えの地質学者の二人だそう。おじいちゃん学者と中年学者だ。なんでもこういう学者の方々は大体がお貴族様からの支援を受けて研究などを行うのだから、パトロンの要請には応えないといけないらしい。

「マツマイ様ー!足元に気を付けて上がってきてくださいねー!」

「は…、はいぃ~…!ぜぇぜぇ」

それにしてもこの学者さんたち、超健脚である。全然追いつけないのはなぜだ。学者とは日がな一日研究室にこもって、あーでもないこーでもないとブツブツ唱えながら妙な薬を調合とかしてるから貧弱不健康とかじゃないのか。

そんな失礼な妄想をしながら必死について歩くこと早1時間は経っただろうか。

もうそろそろ限界だ。平坦な道ならまだしも、ずっと足場が不安定な山道を登り続けて足が生まれたての小鹿のようにプルプルしてきた。さすがにそろそろ休憩を打診しようかと思い顔を上げた頃、ようやく先導する学者の声が響き渡った。彼らはみな声も大きいのだ。

「このあたりが次の検査区域じゃー!どうじゃ、何か分かりそうかのう!?」

「ぜぇぜぇ…待って、まってくださ…」

地下水脈は、あります!ありますけれどもちょっと休憩させてほしいです!

「所長ー!マツマイ様は疲れておいでですー!戻ってきてくださーい!」

「なんじゃとー!?しょうがないのう」

若いほうの学者さんが私の代わりに休憩を提案してくれたことには感謝でいっぱいだが、こんなに近くで叫ばれたことにはやめてくれの気持ちでいっぱいになった。体が疲れて情緒が怪しい。


一息ついて、ようやく落ち着いた頃、おじいちゃん学者が再び問うてきた。

「どうじゃ?この辺りはなにかありそうかのう?」

「はい…えーっと、ここ、こう、120メートル下くらいにありそうですね…。ついでに言うと、もっと深いところに別の水脈があって、そっちのほうは大きくて熱そうですね」

「…所長、おおむね調査通りです。」

「うむ、そのようじゃな。よかろう。お疲れさんだったのうお嬢さん。もう少し休憩したら下山するとしよう」

事前の調査結果と照らし合わせて、おじいちゃん学者の満足いく結果だったのだろう。今日はこれで終わりのようだ。

ほっとすると疲れを自覚するのは世の常なようで、まだプルプルする足をマッサージしながら考える。あぁ、お風呂に入りたい、と。

「ん…?お風呂…?あったかい地下水…!?」

ピシャァアン!と雷が落ちるような勢いで閃いてしまった。日本人なら絶対考え付くだろう、そのアイディア。


「そうだ…、温泉を作ろう。」

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アラサー女ですが、異世界召喚されちゃったので好きに温泉掘ろうと思います。 白玉わさび @melanoleuca

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