死装束
うぃんこさん
死装束
これは先日、膵臓がんで亡くなった母の話である。
母の死の約4ヶ月前、母は自分が死んだ後の事を決めるために資料を作成してきた。その中には「死んだら私が縫った死装束を着せて欲しい」という文言があった。
死装束を自分で縫って着させたというケースがあったら是非私のXアカウントにリプライでもDMでも飛ばして欲しい。とにかく正気を疑った。
是非その死装束を見たい。というか位置を確認したい。そう言ったら母は嬉々として階段を上り、2階の押し入れに案内した。
プラスチック製の箱の中に、それはあった。真っ白な帯の生地から作った死装束と帽子、ピンク色の上掛、あと当日着る肌着と靴下と靴。
宗派にもよるだろうが、何でも小刀や杖を持たせるところもあるらしい。母は持ち物が多いとイヤだと言ってお守りを持たせるよう指示してくれた。それも入っている。
「パンツは履かなくていいのか?」と問うと、お前の職場は老人ホームなんだから1個パクッて来いと言う。分かったとは言ったが、終ぞ持っていく事はなかった。職場のものをなんだと思っているんだこの人は。
とにかく、このプラスチックの箱の中に死装束が入れてあるから忘れないでね!と念を押された。ついでに死んだときに寝るための布団も横に置いておいた。
母の命日、おかげさまで死装束も布団もすぐに用意することが出来た。こういう時に箱というものは助かる。予め分類しておけば、さっと運べてスッと用意できる。
今となっては死装束一式は母と共に灰になった。プラスチックの箱も空っぽのままだ。母を失って空っぽになった心が、あの箱なのだろう。
あの箱が空のままという事は、我々はまだ母の死から立ち直れていないのかもしれない。そのうちあの箱に死装束が入っていた事を忘れ、別の用途として使うようになった時、それでようやく供養が成るのかもしれない。
明日は四十九日法要の日。その前に墓という大理石の箱に
死装束 うぃんこさん @winkosan
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