誕生日プレゼントの箱の中には箱が……

アオヤ

第1話

 今日は私の誕生日だ。

私の大切な記念日を付き合い出して半年になる彼とふたりっきりで過ごす計画だったのに…


 その私の彼、佐伯亮は今日は仕事の都合で一緒にお祝い出来ないからと、プレゼントの箱と手紙を置いて仕事に行ってしまった。

「必ず誕生日になってから開けてね」

なんてわざわざ念をおす様な一言を添えて。

そんな事をわざわざ言われると気になってしまうが真面目な私ははやる気持ちをグッと堪えて日付けが変わるのを待った。


 時刻は24:00時を過ぎて私は二十歳の誕生日を迎えた。

遠くの友人からはSNSでお祝いのメッセージが次々と届く。

でも私は彼氏の亮が居ない一人ぼっちの寂しい誕生日だ。


 もういいだろうと私は亮に言われた様に手紙を開けて読み始めた。

恵摩エマ、誕生日おめでてう。恵摩ももう二十歳、大人の仲間入りだ。恵摩とはこれからもっと沢山の時間、一緒に居たい。この箱は僕からの誕生日プレゼントだ。どうか貰って欲しい』

亮の手紙、本当にあっさりしたものだった。

でも誕生日プレゼントの箱は割と大きいサイズだ。

50cm×50cm位のまるで通販のお届け物みたいなサイズだった。

それに箱の外観は地味で『本当にプレゼント?』と疑いたくなる箱が部屋の隅っこにポツンと置かれている。

私はワクワク半分、諦め半分で箱の上を開けた。

『あれ? この箱の中には……』

私は見間違えかと目をこすりその箱の中を確認した。

箱には何も入っていなかった。

箱の底には扉の様な絵が描かれていて、一枚紙切れが入っていた。

『この扉を開けてください』

私は半分呆れたような気分で箱の底に書いてある扉の取手に手をかけ引いてみた。

すると床下に穴があき、私は引き込まれる様にその穴に落ちてしまった。

「イテテテ、何なのよいったい?」

まるで床下に1m×1m×1mの箱が置いてあって私はその中にすっぽり入ってしまったみたいだ。

何か紙切れを踏んづけてるみたいだったので拾い上げて見てみると『扉を開けてみてください』とまた同じ事が書かれていた。

扉なんて……

私はキョロキョロ周りを見回してみた。

そして側面を見ると扉の絵がまた描かれていたので、また取手を引張ってみる。

すると今度は10畳位の箱の様な部屋が現れ、私はまたそこに吸い込まれてしまった。

その10畳位の部屋にはポツンとテーブルが置かれその上には高級そうな小さな金色の箱とまた紙切れが……

『コレは僕の魂の一部を硬めた宝石です。恵摩には似合うと思うので着けてください。それから次の扉を開けてください』

金色の箱を開けると中には米粒大の宝石が付いたネックレスが入っていた。

「チッサッ!」

つい本音が声になってしまい、周りに誰も居ないかキョロキョロしてしまった。

私はせっかく貰ったものだからと身に着けてみる事にした。

なんだか胸元がキラキラしている様に思えてゴージャスな気分だ。

この部屋に鏡が無いのが残念に思えた。


 また絵のような扉の取手を引いて開けると今度は体育館の箱の様な広い空間に迷路らしきものが収まっていた。

「恵摩、誕生日おめでとう。楽しんでもらえてる?」

急に後ろから声をかけられ私はビクッとした。

声の主は私の彼氏の佐伯亮だった。

「えっ? なんで亮がココに居るの?」

ビックリしている私に亮はニヤニヤしながら

「そりゃー、僕がドッキリを仕掛けたからに決まってるでしょう?」

なんて目を細めて嬉しそうに言ってきた。

そして私の手を取って「さぁ〜 一緒に迷路を攻略しよう」って歩きだした。


 途中、宝箱みたいな箱が現れてソレを亮が「宝箱だよ。開けてごらん」なんて私の背中を押してくる。

私は箱を恐る恐る開けてみると中からビスケットが出てきた。

亮は「せっかくだからソレでも摘みながら歩こうよ」なんて言ってくる。

でも中にはビックリ箱があるらしく、それに当たらないか私はビクビクしていた。

だか迷路が進むに連れ、亮の両手はチョコレートやケーキにデザートに飲み物と食べ切れない程の食べ物で溢れていった。

その食べ物を摘みながら二人で迷路をああでもないこうでもないと歩いていると、なんだか旅をしているみたいで楽しかった。


 そんな旅ももう終わりみたいだ。

迷路も終わり私達は箱部屋の角に辿り着く。

するとソコにはまた扉があった。

亮はまた私に扉を開けるように促す。

「ほら、コレが最後の扉だよ開けてごらん」

今度は隣りには亮が居る。

私は今度は何があるのだろうとワクワクしながら扉を開けた。


 また私達は次の部屋に吸い込まれて行った。

次の部屋は古城だった。

私達は古城の塔の部分に居るみたいだ。

「驚かないで聞いてほしいんだけど……」

亮はなんだかソワソワしながら語りだした。

「実は僕…… 僕は魔王なんだ。恵摩、君を魔王の后として迎えたい。この龍王城を貰ってくれないか?」

私は驚いたフリをして応える。

「えっ、亮が魔王なんてウソでしょう? ちょっと待って、ネックレスは貰うけどお城は…… 私、自分で言うのも変だけど箱入り娘だから2LDKで充分なの。お城って冬は隙間風で寒そうだし、夏はエアコンの効きが悪そうだから勘弁して! でも、亮は大好き。亮の全てが欲しいわ」

私は亮から貰ったネックレスの宝石を台座から外すと飲みこんだ。

そして亮の腕の中に飛び込み離れられない位ギュッと抱きしめた。

亮と見つめあうと自然と唇が近づき深い深いキスをした。

二人は溶け合い一つに成る様に……


 暫くしたら亮の魂が私の中に吸い込まれ出した。

まるで私が飲み込んだ亮の魂の欠片を追いかける様に。

そして亮の身体も鶉の卵位まで縮んでいく。

私は縮んでしまった亮の身体を飲み込んだ。


 なんだか私の願いが全て叶ったようで自然と笑いがこみ上げてきた。

「ふふふ、私は今まで小悪魔だったけど、これでやっと本当の悪魔になったわ。私は多くの下僕を従え楽しく暮らす事が出来る」

悪魔に成った私は古城の魔王の椅子にどかっと腰を下ろした。

あたりを見回すと亮が私に渡すつもりだったのか宝箱が残されているのに気づく。

もしかするとそれはビックリ箱かもしれないが気になり始めるとそんな事はどうでもいい。

私は宝箱を開けてみた。

「ワッ! ハッピィーバースデー恵摩、ビックリ箱だよ」

私の顔はひきつり、身体は膠着した。

なんと箱の中からピエロの格好をした亮が出てきたのだ。

「ハハハハ、分身を造って置いて正解だったよ。危うく恵摩に殺されるところだった」

私は亮に何かされるのではないかと急にビクビクしだした。

そんな私を見て亮は面白がった。

「べつに何もしないよ。魔王と悪魔のバカシアイ。俺達は気が合いそうだ。二人で楽しくやっていこうじゃないか」

私はチラチラ亮の様子を伺いながら頷く。

「そうね。楽しくやっていきましょう」

私はもう笑うしかなかった。

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誕生日プレゼントの箱の中には箱が…… アオヤ @aoyashou

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