【KAC2024】箱の中に広がる世界【KAC20243】

御影イズミ

想像と創造で作られた箱庭

「ふわ……あふ」

「だらしないなベルトア。それがこの世界の神か?」

「だってなあ」


 ポカポカ陽気が広がる街の中、ベルトア・ウル・アビスリンクとフェルゼン・ガグ・ヴェレットは買い物に来ていた。


 石畳の道を歩けば歩くほど、太陽の光が石畳に反射してポカポカと身体を温めてくれて、眠気を誘う。

 道行く人々の中にはベルトアと同じくあくびをする人もいて、眠くなるのは自分だけじゃないんだ、とちょっぴりホッとしたりなんだり。


「……だが、不思議なものだ。箱の中に作られた世界だというのにな」


 フェルゼンとベルトアは知っている。

 このガルムレイという世界は小さな箱の中に作られた疑似世界であり、自分達が生きている世界のような本物とは全く違うものであることを。


 『箱庭研究』。

 それは彼らが住んでいた元の世界・エルグランデにて、大預言のもとに集められた13人の研究者によって進められた研究。

 いくつもの箱庭世界を作り上げて、いくつもの箱庭世界を滅ぼした罪深い研究。

 今では研究者不足となって凍結された研究なのだが……その研究がなければ、この世界は存在しなかっただろう。


「この太陽の光も、街の構造物も、全てが本物とは程遠いはずなのだが。ベルトア、さてはお前何か手を加えたな?」

「じょーだん。ほとんど完成された世界に手を加えるようなバカはやってねぇよ」

「では何故?」

「……考えられるのは、エルとアマベルの『想像』がここまで世界を作ったんじゃないかなって」


 ベルトア曰く、この世界は最初は真っ白で何もない世界だった。

 それこそ、何も描かれていないキャンバスで箱を作ったかのように、床も天井も壁も全てが真っ白で、存在しているのはベルトアと、共に降り立ったレティシエルとアマベルの3人だけ。かろうじて周囲に空気は存在したが、それが持つのは数時間程だけだった。

 帰るに帰れず、通信さえも繋がらない状況。最悪の展開になってしまったと嘆くベルトアの横では、記憶を失ったレティシエルとアマベルが「あれもない」「これもない」とキャンバスに絵を描くように色々なものを生み出し続けた結果、今2人が歩く街並みまで生まれたという。


 ぼうっと往来を眺めてみれば、そこには確かに世界が存在している。

 ここが箱の中だとか、そういうのは一切関係なく。


「アイツらの想像力には感服したわ。水がない、地面がない、空もない、太陽もない、星もないと無い無い尽くしの世界を埋め尽くしたんだからな」

「脱帽するよ。いや、キミにもな」

「そう?」


 眠気を覚ますため、ベルトアは通りがかったアイスキャンディー屋からソーダ味のアイスキャンディーを一つ買って咥える。

 シュワッと爽やかな味が口の中に広がったかと思えば、ほんのり甘い風味が舌の上を転がり、喉をするりと通り抜けベルトアの目を覚ました。

 フェルゼンも同じくアイスキャンディーをしゃくしゃくと食べていたのだが、ふと、通りがかる人々に視線を向けてもう一つの疑問をベルトアに問いかける。


「だが人はどうしたんだ? キミ達の中に人体に関する研究を行っている者がいなかったから、想像からは作れなかったろうに」

「んー、それは覚えてねぇなあ。気づいたらいた、ぐらいで」

「ふむ。まあ元々移転用の世界だから、人が流れてくるのが自然ではあるか」


 アイスキャンディーを食べ終わった後、キーンと痛む頭を少しだけ抑えながら再び街の中を歩いて、目的の店へと向かった2人。

 店で必要なものを購入して、再び同じ道を歩いて、自分達の家へと帰っていく……。


 箱の中に作られた世界はいつまでも、普通の世界と同じように時が過ぎるだけ。

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【KAC2024】箱の中に広がる世界【KAC20243】 御影イズミ @mikageizumi

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