開けちゃいけない黒い箱

花月夜れん

黒い箱

「開けちゃいけないけど預かって欲しい」


 ある日、彼が私にその言葉とともに黒い箱を渡してきたの。


「何が入ってるの?」

「内緒だよ」


 もうすぐ私達は結婚する。きっとそのプレゼントだ。でもなんで開けちゃダメなんだろう。

 サプライズのため?

 じゃあなんで私に預けるのかな。


「それじゃあ仕事に行ってくる。開けちゃダメだからね」

「はいはい、いってらっしゃい」


 彼を見送ったあと私は黒い箱を机の上に置き、家事を始めた。


「痛っ」


 お腹の中で暴れている小さな命。可愛いな。だけどもう少しお母さんに優しくして欲しい。

 めまいがして、少し休む。椅子に腰掛けると珍しく彼の部屋のドアが開いていた。

 どうしたんだろう。いつもならきっちり閉めておくはずの彼が珍しい。

 珍しいといえば彼から朝謎の箱を渡してきたのもそうだ。記念日でもない。そんな時に開けられないプレゼント?

 私は気になって、そっと彼の部屋を覗いた。きれいに整頓された部屋。なのに机の引き出しから何かがはみ出している。

 なんだろう。気になる。私は吸い込まれるようにそれを引っ張り出した。


「写真?」


 仲良さそうに彼と笑顔で並ぶ女の子。ざわりとした。


「なにこれ……」


 次もその女の子。腕を組んでいる写真。

 次、背中に引っ付いている。

 次、同じジュースをストローでシェアしてるところ。決定的ではないけれど……。


「嘘でしょ……」


 震える手でその写真を握りつぶそうとしてしまう。


「ダメ、証拠だよね。コレ……」


 震えながらスマホのカメラで写真を撮る。


「あは、あははは」


 笑いしか出てこない。どうしてだろう。


 もしかして箱の中は、私の機嫌をとるため?

 それとも別れの手紙?

 一体何、何、何が入ってるのよッ!!!


 ガタン


 音がした。まさか戻ってきた?

 写真を元通りにし、急いで部屋を出る。帰ってきている気配はない。ただ、黒い箱が転がっていた。

 開けちゃダメと言われた箱。これが机から落ちた音だったんだ。


 でもどうして落ちたんだろう。まるで開けろとでも言っているように黒い箱はほんの数ミリ歪んで隙間があいていた。


「開けちゃダメ」


 だけど、あんな写真残してるような人だよ?


「開けちゃダメ」


 自分に言い聞かせる。


「開けちゃダメ……」


 黒い箱が口を開ける。中には、写真が入っていた。


「あぁ、開けてしまったんだ。やっぱり人のこと騙すヤツはそうやって約束も守れないんだな」

「いやァァァアァァァァァ!?」


 黒い箱の中にあったのは、こちらを見ている動画通話中のスマホと私が浮気している証拠写真だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

開けちゃいけない黒い箱 花月夜れん @kumizurenka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ