Find me! (かなりシリアスで鬱展開の中編)

 ずっと一緒にいる。

 ただそれだけを願って。

 俺達は別れた。


 そしてそれ以降、互いに連絡が取れなくなる。


 現実の対する認識が甘かった。

 いろいろな悪意にさらされた。

 俺がやりすぎたのか、足りなかったのかもわからない。

 報道陣が好き勝手書き、学校は保身に走り、彼女の親はこんな学校に娘を預けていられないと転校した。

 けれど決定打は俺の方にある。

 件の担当教諭が職員室で俺の家の住所を調べて放火したのだ。


 両親は焼死して、俺だけが生き残った。

 俺は意識不明の重体となり、目覚めたときには全てを失っていた。

 重度の火傷で障害が残り、好きだったゲームも満足にできなくなった左腕。

 電話番号もメールアドレスもスマートフォンごと焼失し。復旧する手段はあっただろうが、知り合いと連絡を取っていいかもわからず、なにもしなかった。

 みんな忘れたほうがいいのかもしれない。


『学校の危機管理の甘さが最悪の事態を招いた』


 連日報道されたニュース。

 安寧を求めて俺も彼女の家族も消息を絶った。

 そして五年の歳月が経ち、放火犯には死刑判決もくだされて、全てが過去になった。


 自分のせいで両親が死んだ。

 一時は自分を責めたが、両親は告発した日の夜に「よくやった」と俺の行いを褒めてくれていた。

 そのことを支えにリハビリを頑張り、今は不自由な左手を抱えながらも大学生活を送っている。


「なあVTuberとかは見てる?」


「見てないけど」


 大学の友達がよくゲーム実況の話をしているのだが、実況されるのは瞬発的な状況判断が求められるゲームが多い。

 昔は好きだったが、左腕の反応が鈍くなってからは見なくなっている。


「ゲーム実況とか好きだったならVTuberの配信とかゆるくてオススメだぞ」


「でもアイドル扱いだって言うし、お金かかるんだろ?」


「イベント行ったりグッズ買ったり投げ銭しなければ無料だって、FPSだけがゲーム実況じゃねーし、一度見てみろよ」


「……またこいつは布教してやがる」


「これも無料でできる推し活だからな」


 勉強にバイトだけの日々では話題は広がらない。大学生活を満喫したいならば、ここで乗っかるのもありだろう。

 そんな打算だったのだが。


「そこまで言うなら一度見てみるよ」


「いいのか! よし本日も沼に一名ご招待だ」


「ハマるかはわからないぞ。それでオススメとかいるの?」


「山程いる! 昨今はバリエーション豊かだからな。凄いやつからやばい奴までよりどりみどり。ただそうだな。素人に勧めるなら、やっぱり大手でデビュー間もない方がいいよな。ちょうど二ヶ月ぐらい前に凄いインパクトでデビューした今人気急上昇中の新人がいいか」


「ふーん。バリエーション豊かなね」


 話を合わせるだけの適当な相槌。

 一度は見るつもりだが、視聴し続けるかは別問題だ。

 バリエーション豊かと言っても、興味のないアイドルの見分けがつかないのと同じで、区別をつける自信もない。


「なんと生き別れになってしまった幼馴染と結婚するために捜索中VTuberだ」


「バリエーション豊かすぎるだろ!? なんだよ結婚するためって。アイドルみたいなもんじゃないのか? 本当に人気なのか? ファン怒るだろ」


「いや最近は婚活するVTuberは特に珍しくはないから、最初に公言しておけば特にファンも祝福してくれるぞ。中の人が三十歳すぎるとファンが婚期を気にしだすし」


「……珍しくないのかよVTuberの婚活。そして婚期を気にするファンって」


「その子の人気が出た理由は、生き別れの幼馴染設定の真に迫っているところだな。幼馴染との想い出トークが本物か妄想の産物か区別がつかない。ファンも幼馴染との恋を応援する派と、ヤバい妄想トークとの決めつけ派に分かれているし」


「……凄いなVTuber業界。そんなやつが大手からデビューしているか。普通に名前出して捜索しろよ」


「本人はそのつもりだったらしい。でもさすがに実名呼びかけは事務所NGらしくてな。ただデビューのときに半年間幼馴染が名乗り出なかったら、自分と幼馴染の実名を暴露して呼びかけるらしい」


「なんでそんな爆弾引き入れたんだよその事務所!?」


「でも今では大人気だからな。やっぱりVTuberは観てもらうための話題性が大事というか、お前も興味出てきただろ」


「……確かにな」


 興味がなかったはずなのに話に引き込まれてしまった。

 生き別れになってしまった幼馴染と結婚するために捜索中VTuberはさすがに想像していなかったから。

 例え設定の話だとして侮れない。


「それで名前は?」


「机下ハコ」


「……つくえしたはこ?」


 変な名前……妙に気になる名前だった。

 そんなまさかはないと思うが。


「いつもダンボールに入っていてな。意味はわからないけど、幼馴染に見つけてもらうための願掛けらしい」


「ダンボールで願掛け!?」


「どうかしたのか?」


「いや、なんでもない」


「そっか。ハコはやたらゲームが上手くてな。特に本気モードはヤバい。ダンボールを被ってスネーク名乗りだしたら完全に無双状態だな」


「あぁ……そういう癖もあったな。それで机下ハコはいつ配信するんだ?」


「今日の夜だな」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る