独り立ち

Rotten flower

第1話

久しく都会へと出てきた。桜咲き独り立ちの季節、そんな僕もまた独り立ちする一人であった。物件の値段はピンからキリまであったが結局、安い方へやすい方へと縋っていたのを覚えている。別に曰く付きだったとしても構わないと決心した。そんな状態のまま今日まで至り手が悴む、正確には緊張でそれに似た状態になっているだけだが。

物件の前まで行くとドアは開いており、僕は疑問に思いながらも中へと入っていった。

お待ちしておりました。

部屋に入ると少しばかりの広さの土間とそこに並んで作られているキッチンがあった。冷蔵庫等付きの物件だと書いてあったが心許ないサイズであった。少し入れてしまえば満タンになるだろう。

どうでしょう。良いんじゃないですか。

僕は軽く頷くとリビングの方へと目を移した。足を伸ばせるスペースはあり、構想にもあったシングルベッドやローテーブルを置いても足りる広さの部屋だった。一応、ユニットバスだが安さを考えれば勿論のようなものだ。

突然、ドン。と大きな音が鳴り部屋全体が揺れる。隣人の騒音問題も想定内だった。自分とは全く別の感性の持ち主なんだろう。最悪出て行ってもらうことも、不可能か。

えぇ、そうでしょう。

匂いはそこまでだった。清掃技術はとても良かった。

ドアがノックされる。

「あら、先に入っておられましたか。」

やっと不動産屋さんが入ってきた。先に入っていてくれた方が助かったのだが。


こういう時ほど瞬時な判断ができるのだろう。隣人からの迷惑な騒音、それによる不規則な生活、悪いことだと知っていながら行う闇バイト。その全てが僕の心を傷つけていった。通帳には三桁ほどしか残っていないことも僕の心を不安定にさせた。

ごめんなさい。なんて誰に言っていたのだろうか。誰に思ったのだろうか。床を見ながら振り子のように揺られながら。天井の軋む音が鳴ったかと思うとすぐに終わった。

ただ一番最後に隣人の姿を見てみたかった。

「えぇ、隣人は亡くなられたみたいです。新しい人楽しみですね。」

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