第3話:襲撃の終わり。異世界での初依頼。

多対一の場合、まず先手を取って相手の数を出来る限り減らす必要がある。

続けて、姿と気配を消して、油断している者から静かに殺していく。

最も、戦場において油断している者など一人もいないがな。

だが、高い場所にいる者、つまり射手は幾分警戒心が薄くなる。

特に、相手が近距離の攻撃手段しか持っていない場合は。

(まあこれは、私の持論に過ぎないが。)

故に、外周に配置されている射手。特に高い場所にいる者から殺していく。

首を掻っ切るか、心臓に刃を突き立てるか。

この2つの方法を駆使して、確実に相手を殺す。

射手がいなくなった敵など、目が見えない人間同様。

ならば次は、頭を胴体と切り離す。

なに、簡単なことだ。一番偉そうにしている奴を殺せばいいだけの話だからな。

視界と思考を奪えば、体はどうすることも出来ない。

後は孤立している者から一人ずつ殺していけば、敵は全滅している。


「終わった・・・のか?」


馬の蹄の音、矢の風切り音、刃と刃が交わる音、

戦場にあるべき音が全て止むと、隠れていた村人達が姿を見せ始めた。

私は彼らの問いかけに「ああ」と短く返した。

だが、彼らが安堵することはない。

まず、この場所が敵に知られたと言うことは、

これから何度でも攻撃を受けることになるからだ。

そしてなにより、家を燃やされ、家族を、友を殺され、全てを奪われてしまった。

彼らの『日常』は、完全に崩壊してしまったのだ。

特に、子供だけが残された場合が悲惨だ。

家も食べ物も奪われたこの状況で、血のつながりのない子供を助けようと

考える者など、そうそういない。


「兄ちゃん・・・あんた一体、何者だ」


炎に包まれていく村を眺めていると、アーガス殿に声を掛けられた。

と言っても、俺のことを訝しむような目と声色をしていたが。

ふむ・・・どうしたものか。

一度別の世界で死に、この世界に転生した者と言うのもな。

ああ、そう言えば一つだけ、確かなことがあったな。


「私は・・・傭兵だ」


そう言うと、アーガス殿は血相を変えて私に詰め寄り

「頼みがあるんじゃっ!」

と後悔と怒りの感情が入り混じった声色で言った。

私は理性を失いかけているアーガス殿を落ち着かせ、

詳しく事情を聞くことにした。


簡単に言うと、彼の孫娘が数ヵ月前に奴隷商に捕まってしまったらしい。

今は亡き自分の一人娘が残していった、可愛い可愛い孫娘。

何がどうあっても取り返したい。それが彼の願いであり・・・

私への依頼であった。


「頼むっ!あんたみたいな凄腕の傭兵なら、

孫娘一人を助けることぐらい簡単じゃろ?!」


彼の真剣な表情と声から、如何に孫娘殿のことを想っているかが伝わってくる。

この依頼、引き受けてもいい。

元より、この世界でも傭兵として修業を積む予定だったからな。

だが、問題が一つある。


「この依頼、引き受けてもいいが・・・居場所が分からんでは、

孫娘殿のことを助けようがない」


私の”引き受ける”と言う言葉を聞いた彼は、

険しかった表情が間の抜けた表情に変わっていた。

曰く、こんなご時世にこんな依頼を受けてくれるとは思わなかった、とのことだ。

しかし、一瞬にして真剣な表情に戻った彼は、私の疑問に対して、

明確な回答を返してくる。


「いや。居場所はウルヴィア帝国のクルートと言う町のはずじゃ。

亜人の奴隷は、決まってそこで競売にかけられるからの」


ふむ。どこにいるかさえ分かれば、救出は簡単だ。

だが、問題は彼らの生活だ。孫娘殿のことを救出して、

帰って来たはいいものの、誰もいなかった。

などということでは困る。

だが、その心配はなさそうだ。

彼は心配する私に対して

「儂らは、隣の村に避難する。孫も村の場所は知っとるから問題ないじゃろう」

と言ってきた。

何も心配することのなくなった私は、早速、

彼にクルートへの行き方を教えてもらい、出発した。


それにしても、村が焼かれ、家族が殺され、普通の生活を全て奪われ、

絶望の中にいた村人と比べ、彼は生活を奪われることにさほど

絶望していなかったな。

ああ言う者は大抵、幾度も生活を奪われて来た者だ。

そして、最後に残った孫娘と言う唯一の希望まで奪われようとしている。

こういったことは柄ではないのだが・・・

いや、私は依頼を受けた身、私情は禁物だ。



この世界は、自然が豊かだ。技術レベルが地球に比べ劣っているからだろう。

アーガス殿の話しから察するに、この世界は『科学』ではなく『魔術』によって

発展を遂げているらしい。

・・・魔術か、童話の世界にしか存在しないと思っていたが、

まさか実在するとは。

だが、世界が違えば理が異なるのも道理、不可思議なことではあるまい。

魔術が如何なるモノか、私には分からないが、

銃の代わりとでも思えばいいだろう。

最悪の場合、現地の者に魔法について教わればいい。

しかし、魔法を扱える者は、産まれた時から定まっていると聞く、

探し出すのは苦労しそうだ。

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狂行軍 ヒーズ @hi-zubaisyu

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