〖第十六話〗 アレーネ

はえ……

いや……ちょ、ちょいちょい


えここそうだよね!?!?

絶対召喚された家だよね!?


どうやら方向だけ異なってはいたが結局この山に続く道を歩いていたらしい。


アレーネはこちらの動転を気にもとめず家に入っていく。


えってか人住んでたんかい!


じゃなくて……

僕なんで30分かけて山降りて、10分足らずでまた帰ってくる羽目になってんの!?


「どうしたの……あっ……その……ごめんなさい……こんな家で……」


確かにボロいとは思いましたけど、それ初見での感想です。

僕、2度目です。

この家見るの。


「い、いや……そうじゃないんだ……その……お邪魔します」


なんと言えばいいかわからない。


彼女には悪いがとても人が居住する雰囲気では無い。

もしかして亡霊とかそういうオチ?

いやでもあの子には1回掴まれた事あるし……


思考しながら家へと入る。


「ちょっと待っててください……奥にお父さんが使ってた服が……」


そう言ってアレーネは部屋のドアを開けた。


『召喚された陣』のある部屋のドアを。


「……!!」


アレーネは明らかに肩を上げ驚いた動作をする。



「あ……あの……その……」


先手を打ってなにか言いたかったが、何も言葉が出てこない。


「もしかして……貴方が召喚されたのって……」


こちらを振り向いた獣人の少女。

その時初めてその顔を見た。


表情は怯えだったか

哀れみだったか

それとも絶望だったか


少なくとも安心して良いような雰囲気は無かった。


きっと笑えばとても可愛い少女なのだろう。

ローブの影に隠れず光るそのガラスの様な目には、あさひをどう映しているのだろうか。


「……ごめん。でも場所も時間も僕に選ぶ権利はなかったんだ……」


「どうして……私の家に……?」


何となくというか、そもそもこの家に事も無げに招いていた時点で予感していた。

この子は召喚者ではないと。


「ご、ごめんな……俺、もう行くよ、君に迷惑はかけないから……!」


再びドアを開け外に出ようとした瞬間、腕を掴まれた。


「待って……!」


咄嗟にに走ったのかローブが取れている。


茶色の髪に同色の獣耳、肩まで落ちた髪には左右結び紐が蝶々結びで留めてある。

綺麗な髪と可愛い顔だった。

みすぼらしい服装とのギャップでより目が釘付けになる。

瞳は真っ直ぐに自分を見ている。


「あ、えっと……?」


「その……貴方のせいではないのはわかっています……!」


「迷惑でなければ……少し待っていてください……」


パーカーの袖を掴む手に力が入るのがわかる。

どうやら本気で引き止める気みたいだ。


「う、うん……君が言うのなら……わかったよ……」


自分の近くの木のイスに座ると大人しく待つことにする。

呆気にとられて天井の木目を数えてしばらくすると奥からアレーネの呼ぶ声がする。


「こっちに来てください」


言われた通りに部屋に入るとアレーネが身長差を埋めるようにして腕を目一杯伸ばして畳んだ衣服を差し出してきた。


「これ!着てください」


「いいの?助かるよ」


衣服を差し出すとアレーネは部屋を出ていった。


ベルトやマント、ご丁寧にブーツまで付いている。

想像してたよりずっと丁寧に保管されていたようで、穴が空いていたり汚れていたりもしない。

着てみるとサイズはピッタリだった。


「君のお父さん冒険者か何か……?」


着終わって部屋を出るとアレーネに話しかけた。

もし現役なら貰うのはまずい気がする。


「そうです……昔よく私にダンジョンの事話してくれてました……」


ん?

はい。危険を察知しました。

"昔"らしいです。

昔で時が止まっているのをこの家の様子が物語っているように感じる。

大事をとって話題は変えることにする。


「そ、そっか。それで何で服を君はくれたの?あのままだったらもしかしてまずかった……?」


「さっきまでの服装、まるで超能力世界から来たみたいだったから……」


超能力世界?

なにか引っかかる。


……

あぁそうだ。

転生する時に聞いた言葉だ。


あれ?僕が選んだ世界って……


「ちょ、ちょっと待ってくれ……超能力世界が!!存在するのか!?」


「はい……正確にはこの世界とは別の世界ですけど……。不定期に世界と世界が繋がる亜空間ゲートで行き来できます」


そんなこと聞かされていなかった。

独立した別世界だと思っていた。


「じゃあ……もしかして。もうひとつ世界があったり……とか……?」


「……!何でわかったんですか?そうです……。魔術世界があります」


「うっそだろ……おい……」


嫌な予感がする。

三つの世界が繋がりがあると言うならこの世界に転生したのはまずい気がする。

超能力世界から来た人間だと勘違いされ襲われたというのなら世界間は緊張状態だろう。


ならこの世界は時期に戦火に焼かれる事になるかもしれない。

先程山を下った先にあった村の技術水準が平均とすれば、とてもかないそうにない。


前世の服装がそのまま超能力世界での一般的な服装というのなら、向こうは前世で言う現代にあたると言えないだろうか。


ならばあちらは戦車、艦隊、戦闘機そういうものを保有しているのでは無いだろうか。


嫌な考えが頭をよぎる。

前世で夢見た異世界転生を奇跡的に果たしたと言うのにこんな事を考えたくは無い。


ん……そういえば異世界なんだよな。

三つの内『スキル』の存在する世界。


――――スキル――――


頭によぎるその単語であさひは目を見開いた。

もしかしたらこの力で文明の差を埋めているのではないか。

あさひの中で興味が湧きあがる。


「な、なぁスキルって……誰でも使えたりする……?」


「はい。使えますよ。頭の中でウィンドウと唱えてみてください」


「あ、あの冗談ではなくて……!」


アレーネは慌てて付け足した。

確かに何も知らない人にとっては訝しげな表情にもなるだろう。

しかし安心して欲しい。

前世のオタクの理解は早いのだ。

声高らかにステータス!とでも叫ぶ準備さえある。


ウィンドウ


「な、なんだこりゃ!?」


思わず声が出た。

脳内ではなく眼前に、ゲームの世界のプロフィール表示のようなものが現れた。

前世のVRとか、メガネ型デバイスみたいな見え方が近しいだろうか。



━━━〚あさひ〛━━━

祝福ギフト:司令  職業ジョブ:勇者

クラス1     レベル1

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

指定武器:なし

英雄宝具:なし

契約英雄:なし


他にも左右上下、項目は多いが適当に見まわっても混乱するだけなのでやめておく。


「こ、これは……?」


「ディスクローズ」


目の前にまた新しいステータス表示が出てきた。

今度は視界を動かしても追従して来ない。

空中に静止してウィンドウが表示されているようだ。


━━━〚アレーネ〛━━━

祝福ギフト:華   職業ジョブ:戦士

クラス3   レベル8

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

指定武器:ヒセイ花

英雄宝具:鍾愛恍剣レストクレイス

契約英雄:レスト


「別に口にする必要は無いですが……さっきのはステータスを開示するスキルです。右上の基本スキルから全部見れますよ……!」


どうやら目の前にあるステータスは彼女のものらしい。

何やら装備武器っぽい欄に花の名前があり、思わず吹き出しそうになったあさひだったが、アレーネの説明に遮られる。


「私ので説明しますね……。祝福ギフトというのは与えられた才能と言えば良いでしょうか……。恵まれたものでない人は『縛り』とか『制約』と呼ぶ人もいますが……」


「この祝福によって使えるスキルが変わります」


「君のはそれ……華?」


「はい……!だから私は花に関する 祝福ギフトスキルを持っています……!」


「へぇ……華か……」


なんだか可愛らしい祝福だと思った。

アレーネは確かに花が似合いそうな少女だ。

祝福ギフトを決められたものなのかは知らないが、もしそうだとするなら選んだやつはセンスがあるなとあさひは感心する。


こうしてみるとやっぱりこの獣人の少女はしっぽから耳まで……


「……かわいいな」


脳内で考え事をしていると、ふと声が出る癖がある。

今回もそれだ。

周りが見ればなんの脈略もない言葉を急に発する人に見えるだろうなと思いつつも直せない。


「ふぇ……!?」


彼女は顔を赤らめると俯いてしまった。

どうやら褒められ慣れていない様子で、ほんの僅かのしっぽの左右の動きだけが感情をむき出しにしている。


「あ……あぁき、気にしないでくれ……独り言というか……」


「そうだ!その英雄とか、宝具とかって一体なんなんだ?」


「えっと……これは私たちだけが使える切り札です……!」


「切り札……?」


「はい。英雄というのは昔この世界での偉業を達成した人達のことです。偉業と言っても様々で、2000人の魔術師の進行を一人で食い止めたエルタール様だったり、私みたいな亜人の地位の向上を果たしたシルガ様だったり……」


「そんなあらゆる英雄の力を契約することで一部使うことができるんです。逸話の神聖度や伝承する人の数で強さが変わります」


「なるほどなぁ。じゃあ……もし聞いても良ければ君の契約している英雄についても教えて欲しいんだけど……いいかな?」


「わかりました。私の英雄様は兎や鳥などの動物を愛していた方でして……。スキルでその動物達と協力して、ある村の火災の発生を防いだ英雄として語り継がれています。お母さんがその村の出身で知りました。あんまり有名じゃないんですけど……」


「とても優しい人だね。それで……偶然なのかもしれないけど……その宝具にもその人の名前があるんだけど……」


「それは偶然では無いです……!必ず英雄様の名前が入ります。その英雄宝具の方が先程言った切り札です。聖剣なんて呼ばれ方もしますね。英雄様と契約してLvと月日が一定以上になると英雄宝具が使えるようになります。それは契約者と英雄様二人で作られる世界に一つだけの強力な武器になるんですよ!」


だんだん話すうちにアレーネが打ち解けてくれているのを、語尾や口調表情から読み解けるような気がした。


「最低限のシステムは理解出来たよ。ありがとうアレーネ」


「いえ……。そういえばあさひさんは……」


「あ。そっか。僕も見せるよ。ディスクローズ。……だっけ?」


あさひのステータスがアレーネにも見えるように表示された。


「え……!?」


耳をピンと立てて、アレーネは召喚陣を見た時と同じ位驚いた顔でウィンドウを凝視している。


「司令……」


「ど、どうかした……?」


祝福ギフトが2文字なのは混血の証です……」


「え……混血……?えっと……待ってくれ!!!僕、召喚されたんだけど!?!?」


何が何だか分からない。

召喚の過程で何処がどうなれば血が混じるなどということが起きるのか。


「だからおかしいんです……!転生者様に混血の兆候が現れるなんて……」


そんな……

世界のバグみたいなこと……


「それに……」


祝福ギフト『司令』は……10数年前魔王を討伐した勇者パーティのリーダーだった勇者の祝福です!!!」


「どーなってんの」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

三元世界の異世界支配者戦線〜勝つのはスキルか、魔術か、超能力か〜 れると @reruto

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画