《第九話》 無双
「もーアサヒ……もう外真っ暗だよ?こんな時間まで図書室で何やってたの?」
「調べ物だ。別に先に帰っても良かったんだぞ」
「私も別の用事があったから……にしてもこんな遅くなるとは思わなかったけど」
時刻は8時をまわったところだろうか。
今夜も月は出ておらず、辺り一面漆黒に包まれる。
「最近若い魔術師を襲う超能力者が夜徘徊してるらしくて……怖いな……もう既に私達の学院生徒が何人も亡くなったって……」
「噂の能力者か。敵陣世界に単身乗り込むなど愚者のすることだ。俺程の実力ならまだしも……」
2人で話しているところだった。
街灯も途切れ途切れになり、ついにはこの先明かりが何も無い道に差し掛かったところで不意に横道に気配を感じた。
「凄惨なる報いは愚者への手向け:終焉」
高速で回転する歯車を思わせるほどの手慣れた魔法陣の高速展開
アサヒは気配を感じた方向へ魔術を使用する。
3つの魔法陣は空中展開と同時に回転していた動きが制止すると真っ黒い紫色をした炎と剣と鎖━3つをセットとし魔法陣の数分の攻撃━は路地裏にいたフードの男へ一斉に向かっていく。
【変幻操作】
アサヒの攻撃は建物の壁を貫き、崩壊させる。
確かにあった路地裏が、男がそこには"無かった"。
「エレイン。気をつけろ。あいつ超能力者だ」
「ええええ!?ちょ、ちょっと!!」
エレインの手を取ると、アサヒは前方に走り出す。
その時、後ろから久しく聞いていない音が鳴り響いた。
「この音…」
「な、何?」
振り向くと6,7m先の暗闇に人型の影があった。
その影の右手には、
銃口は上を向いている
拳銃……
そういえば10数年この世界ではどこを見ても銃器の類は目にしていなかったな
そういえば軍法にも火薬や銃火器の仕様の禁止の項目があった
とすればあれはやはり超能力者世界の代物か
まて
先程のはやはり銃声で確かだ
威嚇射撃を後方でわざわざ見られていない場面でする必要は無い
なら
瞬時に後ろを振り向く。
フードの男は真後ろにいた。
手にはナイフが握られていて、切っ先はもはや眼前まで迫っている。
[
突き立てられたナイフは謎の抵抗でカタカタ音を立てて、アサヒの数十センチ前で止まっている。
ナイフの周りは黒いモヤに包まれ、漆黒の粉が散っている。
「俺の
「繰り返すは永劫の連環:
アサヒは左手を広げ、詠唱すると即座に魔法陣が空中展開される。
魔法陣からは漆黒のエネルギー体が渦を巻いて真横に勢い良く嵐のように飛び出した。
そこだけ光が失われたように真っ黒くアサヒの魔術が伸びている。
フードの男はその魔術を正面から受けたが、まるで砂像のようにあっさりと霧散してしまった。
幻影と実体を入れ替えたか。
再び振り向くと銃を持ったフードの男は建物の間に逃げ込もうとしているところだった。
(終焉)
1度詠唱した魔術はしばらく詠唱の必要が無い。
魔術の詠唱には前文と起動文が存在する。
筆記する際には「:」で区切り、その前と後ろで区分される。
1度詠唱すればあとは起動文を脳内でイメージすれば魔術は行使出来る。
高速で飛んだ三本の紫炎を纏う槍は男の先手を行き路地の入口にめり込むほど強烈に刺さった。
数発の銃声。
アサヒはよけようともせず、銃弾を真っ向から見据える。
銃弾は煙のようにアサヒの前で消え去る。
[
アサヒの身体が急激に真っ黒い塊になったと思うと、次の瞬間には渦を巻いてやがて虚空に消えていった。
それと同時に超能力者の男の真後ろに、消えていったアサヒの様相を逆再生したように今度は虚空からアサヒの身体が形成された。
アサヒは男の衣服を掴むとゴミでも投げるような軽い手つきで男を吹っ飛ばした。
男は壁にめり込むほどの衝撃を受け、額からは血が伝っている。
アサヒは右手を男に向けながら前進する。
「何者だ。吐けば一撃で殺してやる」
「あぁそうかい」
男はすかさず、懐から
「クソが」
アサヒは右脚で男の腕を蹴り、拳銃を落とさせると同時に着ていた制服のマントをエレインのいるところに投げる。
マントはエレインを包むように形を変えると、銃弾を受け止め、すかさずアサヒの元に戻る。
アサヒは再び男の方を向いて襟を掴んで持ち上げ、強烈に睨みつける。
こいつごときにエレインをどうにかできようとは微塵も感じさせない。
俺が何をしなくともエレインは未知の銃弾ですら、対応してみせる。
それが俺と同じくして、魔術学院へ来た彼女の才覚たる信頼。
ただ。
無性にアサヒ・アーヴァインにとって
エレインに銃口を向けたその一瞬が
「気に障る」
「
男はまた超能力で姿を暗ました。
しかしアサヒは男の行方を探す素振りは見せずに天を仰ぎ
薄ら笑う
「カハッガァアッアガッアアアアアアアア」
やや左後方で地面に手を付き吐血する男がいる。
紛れもなく先程消えた能力者だった。
声で場所を把握すると振り向き、男の頭頂まで歩く。
「今お前の
「簡単に言えば言いたいことがいえなかった怨嗟がお前を襲う。魂となった怨みに本意の違いなど知る由もない。お前が言いたくなかろうがその魂の怨嗟に抗えない限り秘密は秘密である限り形で現れない以上言葉にできるのにしないその
「クソが……誰が情報な……ガァッ……」
今度は腹部を抑える。
「もしかしたら」
「お前が最後に残るかもな?」
早々に限界が来たのだろうか、超能力者は口を開いた。
「何を言っているのか知らんが、比較対象が誰だろうと当たり前だろう」
「もうどうでもいいかァ」
「訳の分からない"制裁"より今のこの胸糞悪ぃ心臓えぐられる見てぇな感覚の方がよっぽどクソ見てぇだ」
「俺は任を負ったンだよ。"魔術世界"のテメェを殺す仕事っつか、」
「この世界のアサヒを」
「……」
「待て!!!!!何が言いたい!!!!!」
「なんだ……その……まるで俺が他にいる見てぇな……」
「ア゛……」
それ以降男が口を開けることは無かった。
アサヒの前でうずくまっていた超能力者はアサヒが瞬きをするその瞬間に一瞬で氷漬けとなって、もう一度目を閉じたその頃には水溜まりとなって消えていた。
逃げた可能性は疑わなかった。
水溜まりには男の衣服と大量の血が溶け込んでいた。
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