第5話 ここはもちろん「異世界」!


 ぎゃぎゃぎゃ――!


 「緑色の子供ら」が得物を振りかざしてレグナスに襲い掛かる。

 明らかにこちらを殺そうという気配がありありとうかがえた。


「くぅ! 何者かはわからないが、人を殺そうとするのなら、殺されても仕方ないよなぁ!」 


 ギン――!


 と、レグナスの剣が閃く。


 「緑色の子供たち」のうちの二人ほどが、腹や首を切り裂かれ地面に倒れた。

 しかし、他の者たちは全く意に介することなく、さらにレグナスへと切りかかる。


「な!? なんだ、こいつらは!? 仲間がやられたってのに怯むどころか、全く意に介さないとは――」


――「子供」ではないのか? 


 レグナスはこれまでの戦場を思い起こす。

 仲間が隣で死んでも意に介さず進むさまは、まるで、訓練された歴戦の兵士どものようでもある。

 が、もう一つそのような行動をとる者たちもいた。


亡者もうじゃ」か――?


 「亡者」とは、死を恐れない狂った兵たちのことを言う。戦場では時折目にすることがあった。

 迫りくる「死」への恐怖を紛らわせるために、戦場に出る前に「薬」を煽り、意識を正常に保てなくするものたちのことを言う。


 たいていの場合、負け戦の折や、すでに手負いの状態でその戦場で生きては帰れないだろうことを覚悟したものがそのような行動をとった。

 「亡者」たちを戦術として用いる武将や軍団長も中にはいた。

 彼ら「亡者」は痛みや恐怖を感じることはない。ただ、動ける限り動き、動けなくなるまで、つまり、死ぬまで戦い続けるだけだ。


 この緑のやつらは、まるでその「亡者」のようだった。


(ならば、容赦せずに切り伏せるまで――)


 そう心に決めなければ、こちらが手傷を追うことになりかねない。

 こんな何処ともわからぬ場所で手傷を負うのは致命傷になりかねない。それに、この森を抜け安全な場所に出るまでどのぐらいの敵に遭遇するかもわからないのだ。


(悪く思うなよ――。こっちも生き延びるためだ――)


 数分が経過しただろうか。

 レグナスの周りは「緑色の子供たち」の亡骸で埋め尽くされていた。


 血の匂いが立ち込める。

 血の匂いは戦場のそれと変わらなかった。


 やはり、「子供」なのか?


 少なくとも、人間と同じように血が通っている生き物であることには違いなさそうだが、戦闘中気にしてはいたが、互いに言葉を交わしているようなそぶりは見られなかった。

 気味の悪い金切り声を上げてはいたが、「言葉」というよりは「鳴き声」というような感じで、意思疎通が出来ている風には見えなかったのだ。



(とりあえず、全部、始末したが――。この血の匂いはあまりいい状況とは言えなさそうだ。この匂いを嗅ぎつけて獣の類いが集まってくるかもしれないからな。すぐに移動を開始しよう――)


 しかし、どちらへ向かえばよいかわからない――。


 その時、左腕の手甲が輝きだし、気が付くと手甲は消えていた。

 

 レグナスは先ほどのゼクスとのやり取りを思い起こして、衣服の袖を捲り上げてみる。


(これが、紋章――)


 左腕には先ほど見た手甲の意匠と同じような絵柄の「墨」が浮かんでいる。

 

 たしかゼクスは、『戦闘態勢時は、手甲の形になる』という意のことを言っていた。つまり、現在、戦闘態勢は解除されたということだろうか。


(ふうむ。確かに周囲に今のところ敵らしき気配はないな――)


 そう思いながら、森の木々をぐるりと見渡す。

 さて、どちらへ進めばよいのやら――。


 そう思っていた時に、森の木々の間にかすかな光を見て取った。その光は、淡い紫の光――。明らかに自然の光ではないと一目でわかる。


(はあん、なるほど――。これはってやつか……)


 恐らくはゼクスの仕業だろう。

 彼女は「案内役ガイド」だとも言っていた。


 さっきのように姿を現すのは極力避けたいとの意向なのか、それとももう姿を現さないつもりなのか、そこはよくわからないが、取り敢えず、まずは安全な場所を探して進むしかないようだ。


 レグナスは森の中をその光の方向へと歩み始めた。

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